ソーシャルインフルエンス:
「自閉症」について知っている人は少ないが、どのようにすればこの発達障害を広めることができるのだろうか。子どもたちを支援するNPOは考えた末、Facebookを使うことにした。その結果……。
●「インフルエンスの波」をつくる
「コミュニケーション・シャットダウン」の基本設計はこうだ。2010年11月1日にFacebookとTwitterをシャットダウンすることを広く呼びかける。「世界で初めて、ソーシャルメディアを使ってソーシャルメディアを閉鎖する」というのがその謳(うた)い文句だ。
実際にシャットダウンするために「The Chapp」と名付けられたアプリが開発された。このアプリをダウンロードすると、ユーザーはこれを通じて基金にドネーションができ、またその1日だけシャットダウンを実践していることがアカウントページに表示されるしくみだ。
2社は同時に、世界中に散らばるNPOなどの自閉症支援基金にコンタクトし、「コミュニケーション・シャットダウン」への参画を呼びかけた。もとはオーストラリアのNPOから始まったとはいえ、自閉症患者は世界で急増しており、またソーシャルメディアにも国境はない。このネットワークの創出によって、世界中から基金を募ることが可能になった。
こうして基本的なプログラムの設計が決まると、次はコミュニケーション戦略だ。短期間で影響力を最大化するために、関与させ発信させるターゲットごとに大きく3つのステージが策定、実行された。
ステージ1:エバンジェリスト(自閉症に関心が深く、ソーシャルメディアで影響力を持つ)
ステージ2:インフルエンサー(社会活動をするセレブや著名人など、大きな影響力を持つ)
ステージ3:マスメディア(テレビや新聞、ネットメディアなど広範な報道のパワーを持つ)
深い関与(エンゲージメント)が期待できる層からアプローチを始め、より広範なメディアに広げていく。さらには、ステージ1の成果がステージ2、ステージ2の成果がステージ3にインフルエンス(影響を及ぼす)ように設計されているわけだ。
まずは、ソーシャルメディア上のエバンジェリストを探索するところから開始された。モニタリングツールを駆使して、ソーシャル上ですでに自閉症について発言している人、あるいはチャリティや寄付に興味のある人、デジタルキャンペーンに興味のある人などを片っ端からリストアップしていく。つまり、必ずこのキャンペーンに興味や関心を持ち、参画し、さらにクチコミを広げてくれるであろう人たちを、あらかじめ把握しようというわけだ。
次に、シーディングコンテンツとして、このキャンペーンのティザームービーを作成した。これは、直接的なPRの役割を持つと同時に、あらかじめリストアップしたエバンジェリストに提供し、彼らとつながる何百、何千、何万人という友人やフォロワーに広めてもらうための「武器」としての役割も果たした。このムービーを通じて、自閉症の子どもたちとその支援への共感を獲得する。
次に、インフルエンサーだ。当然ながらCMやプロモーションの契約ではないので、金銭そのものではなく、共感を得られるかどうかがポイント。社会的責任も大きいインフルエンサーには、自閉症への関心に加えた「大義」も必要になる。
また、もうひとつ重要なポイントとして、インフルエンサーに期待するアクションの問題もある。いくら共感や意義を感じてもらったところで、それが例えば1カ月間も拘束するようなキャンペーンだったり、12時間もかかる遠い国にまで出かける必要があると、現実的なハードルはあがってしまう。しかし「コミュニケーション・シャットダウン」で期待することは、1日だけ自身のアカウントを閉鎖すること。たったこれだけだ。
アプローチの結果、数多くのセレブや文化人が参画した。オーストラリア出身のスーパーモデル、ミランダ・カー、人気俳優のスティーブン・セガール、アポロ11で有名な元宇宙飛行士のバズ・オルドリン、自閉症患者でもある著名な動物学者、テンプル・グランディンなどだ。
こうして、ジワリジワリとソーシャルメディア上で話題を広めながら、最後の仕上げとして展開したのが大規模なマスコミPRだ。「コミュニケーション・シャットダウン」が実行される2週間前から、一気呵成にメディアキャンペーンが開始された。戦略PR会社ローランドがメディアツールキットを準備した。
メディアツールキットは、グローバルな企業ではよく作成される。広報担当者が物理的に離れていること、PRの指針が国によってブレる場合があることなどから、基本メッセージ、メディアに提供できる素材集、取材対応可能なインフルエンサー、メディア対応時の注意点などがまとめられたものだ。
ローランドはこれをネットワークした各国の自閉症基金団体へ提供し、世界中でのPRの統一化も徹底した。ねらいどおり、「世界で初めてソーシャルメディアを1日だけ閉鎖する」という企画のユニークさ、「ソーシャルメディア中毒」という旬の話題感、そして「自閉症の啓発」という社会性の高さから、数多くの新聞やテレビがこれを取り上げ、それがまたソーシャルで話題になるというスパイラルで、確実に11月1日の「Xデー」に向けた盛り上がりが醸成されていった。
●ソーシャルインフルエンスの実現
結果は大成功。「コミュニケーション・シャットダウン」は164カ国にわたって、実に600万人もの人々にリーチし、ドネーションは40カ国から集まった。まさに、ソーシャルインフルエンス(社会影響力)が発揮されたといえるだろう。「閉鎖」の1日が終わった翌日、世界中のFacebookやTwitterは、こんな書込みで溢れた。?Yesterday was a long day without you..but it made me realize what challenges the people with autism have. (あなたなしの昨日ほど長い1日はなかったけど、おかげで自閉症の人たちが抱える苦難が理解できたみたい)?
「ソーシャルメディアを使って、ソーシャルメディアを閉鎖する」という、コロンブスの卵ともいえるコアアイデアが秀逸なのは言うまでもない。加えて、ソーシャルメディア上のエバンジェリスト、著名人などのインフルエンサー、マスメディアを巻き込むインフルエンス連鎖設計、「ソーシャルメディア中毒障害」などの社会インサイトの活用など、アイデアを具現化する施策設計も大きな成功要因だっただろう。(終わり)