⑤ エサを貰えなくなると4匹の親猫と20匹の子猫はどこえともなく姿をけしてしまった。

何気なく「チビ」と声を出しガラス戸をトントンたたくと、どこからともなく現れ足元にじゃれついた。チビはヤマトの娘の子でオス猫だった。

前足と後足を雑巾できれいに拭いて、家に入れた。最初は怖がっていたが、慣れたら家猫と変わらなく感じられた。

朝・夕、食事が済んだら、何処に住家があるか分からないが、外に出してやると、振り向きもせず消えて行った。

そうした日が4月から12月まで続いた。

大晦日は今年は大変お世話になりましたと、言わんばかりの表情で食事を終え、何時もの様に帰って行った。

年が明けて2007年、元旦にも普段と変わらず現れ、今年も宜しくと挨拶している様だった。

2日の夜は余り食事を摂らずに帰った。3日の夜は元気なく、胃液だろうか黄色い物を嘔吐した。

女房と今夜は泊めてやろうか相談したが、初めての経験で緊張やストレスで眠れない方が、身体に悪いのではないかと、外に出した。嫌がりもせず出て行った。

4日の夜はいくらチビチビと何度呼んでも、来なかった。

やはり昨夜は、泊めた方が良かったのではないかと、反省しても

後の祭りだった。

気がかりの内に5日の朝を迎えた。10時頃、庭から数メートル離れた、コンクリートに横たわり暖かい陽射しを浴びているチビを見つけた。

急いで抱きかかえ獣医に走った。このままだと生存率は20%しかないと獣医の弁だった。

とにかく生かしてやってほしいとお願いして、いろいろな検査の結果、「猫、伝染性腹膜炎・ドライタイプ」に感染しておりコロナウイルスにおかされいるが、原因が分からないため、治療法もないのが現状だと説明を受け取敢えず入院させた。

5日経ち少し元気を取り戻し、我が家に帰った。五感がおかされ、腰がいけないのか、後ろ足がいけないのか、満足に歩けない。

投薬はステロイド剤と安定剤だった。ドライタイプは便が硬く排便が困難だと説明を受けた。

病気を機会に家猫で飼うことにした。時々、獣医に受診に出かけても症状を聞くだけで治療はなかった。

以前、小父さんが帯状疱疹(ウイルスが原因)を患い、治療が少し遅れたので、後遺症の神経痛が一生残るかも知れないと医師に言われが、エッセンシャルオイルを使い自分で治癒させたのを思い出し、チビも同じ哺乳動物なら、「ティトリー・ラベンダー・ペパーミント・ラバランサアロマィカ」をホホバオイルで希釈して、チビの全身マッージを一日3回始めた。三日目の夜、排便してくれた。万歳と思わず叫んだ。


元気な時は、家のあちこちをよろけながら、マーキング?したり、見つけ難い場所に排便していた。ベットを用意したが、寝てくれず、女房の掛け布団の足元で休み、トイレに間に合わず布団に排便された事もあった。

たまには外の空気を吸わせてやりたいと、近くの静かな芝生に連れ出したが、視力が殆ど無く、這う様にして数メートルを歩いただけだった。

チビは利口な子で、一度叱られた事は二度としなかった。

余り目立った症状はなかったが、深く静かに病は進行していたのだろう、ついに立てなくなり、食事も自分で出来なく、全て我が夫婦の手が必要になり、身体を支え排尿・排便をさせるが、思う様にならなかった。


ゲージに吸水シートを敷いたり、暖房マットで寒さ対策をしたりで家猫にしてから、11ヶ月と7日の命だった。

痩せ衰え、毛並みは悪くなり、手足の関節が硬くなり、目は大きく開きっ放し。しかし、苦しいだろう、痛いだろうと思ったが、甘えて鳴くことはあったが、病気で鳴くことは一度もなかった。

我が家で飼った動物の死は、みんな畳の上で、夫婦に抱かれて命を全うしてくれた。

チビの身体をきれい拭き清め、見納めに抱いて家中を周り、遊んだ所、隠れた所など…ボール箱にタオルを敷き、白い花束に

深紅の花を一本添え、好んで食べたドクダミの葉をちりばめて荼毘にふしてもらった。

今までに飼った動物たちの死で、チビの死が一番哀しかった。