長らく内乱状態にあったシリアですが、化学兵器の使用疑惑が生じ、大きくクローズアップされることになりました。
当初はすぐにも米軍による攻撃が始まりそうな雰囲気でしたが、国連ではロシアと中国が反対に回り、イギリス議会も攻撃を認めず、オバマ大統領も議会に判断を委ねることにしたようです。
9月2日の福井新聞は、「シリア攻撃先送り」と見出しをつけましたが、ここへきて議会の役割が大きくなってきているようなので、取り上げてみたいと思います。
まず、議会が反対に回ったイギリスですが、大量破壊兵器疑惑を口実に開戦に踏み切りながら証拠が出なかったイラク戦争への反省があるようです。
8月31日の福井新聞では、「イラク戦争で生まれた猜疑心が議員に影響を与えた。残念だがそれが現実だ。」というハモンド英国防相のコメントを掲載していました。
イラク戦争の際に世論の反対を押し切って参戦したイギリスでは、当時の意思決定に対して批判が起こり、独立調査委員会が設置され、ブレア首相などが次々と喚問されました。
そのトラウマが今回の議決につながったようで、さすがにキャメロン首相も議会の判断を無視するわけにはいかなかったようです。
実をいうと、シリアへの軍事介入を最も強く主張していたのは英国政府だったようなのですが、オバマ政権としてははしごを外された形になるようです。
この流れを受けたのか、アメリカ大統領としてはかなり異例のことながら、オバマ大統領も議会に判断を委ねることになりました。
9月2日の福井新聞には、オバマ大統領の声明要旨が掲載されていましたが、ポイントは二つばかりあるようです。
一つは、米大統領には「議会による特段の承認なく軍事行動を起こす権限がある」と明言しながらも、あえて議会の承認を求めたことです。
その理由について、議会承認によって、より強くより効果的に行動するためだとしており、議会指導者の「民主主義にとって正しいことだ」という同意の言葉も織り込んでいました。
もう一つは、国連の承認なしに軍事行動を行うことに対しては、「気にならない」としており、アメリカの国連に対する認識がよく表れているように思います。
このあたりの判断に、オバマ大統領の苦悩やしたたかさが散見され、非常に興味深い事態になっています。
実を言うとシリアの場合、内戦が続いた方が各国にとって都合が良いという背景があり、少々「毒ガス」に過敏に反応しすぎたという側面があるようです。
まず、ロシアがいる以上、武力行使を容認する国連決議はあり得ない状態です。
地中海への出口が黒海しかなく、ボスボラス海峡とダーダネルス海峡の封鎖の危険が常に付きまとうロシア海軍にとって、シリアのタルトゥース基地は最重要拠点です。
つまり、アサド政権が崩壊することはロシアにとっては許容できない事態で、ロシアが拒否権を有する以上、シリアへの武力行使を容認する国連決議など望むべくもないわけです。
このあたりの判断は、さすがアメリカという感じです。
ただオバマ大統領にとって難しいのは、アサド政権と反政府組織のどちらの勝利も、欧米諸国にとっては望ましくないという構図だったりします。
そもそも現在のシリアの内乱は2011年のアラブの春を契機に始まったものの、現在はイランが支援するアサド政権VSイスラム原理主義勢力という様相を呈しています。
つまり、アサド政権が崩壊すれば強力な反米国家が誕生しかねず、放置すれば民主主義の警察官の威信にかかわるというわけです。
特にリビアのカダフィ政権崩壊後に周辺諸国に武器が流出したように、中東でもエジプトに次ぐ軍事大国であるシリアの崩壊は、間違いなく周辺地域の不安定化をもたらすものと思われます。
オバマ大統領にとっては難しい選択が迫られたということで、実はその責任を議会に丸投げしたとも見え、オバマ大統領がどのように評価されるかは興味あるところです。
いずれにしても、民主主義云々というより、「毒ガス」に過敏に反応してこぶしを振り上げてしまったものの、落ち着いて考えたらまずかったといった感じのような気がします。
各国の対応の違いはそれなりに興味深いのですが、大国の思惑によって苦しむのは一般庶民という構図はいつの時代も変わらないようです。
日本でも集団的自衛権について議論されている最中であり、国政に携わる方々にとっては無関心ではいられない所であろうかと思います。
仮に日本で自衛隊の海外派兵が認められるとすれば、議会の承認と国連決議は必須条件になると思うのですが、個人的には主体的な判断ができるかは微妙な気がするのでした。