安倍政権が、自衛隊の集団的自衛権の行使に向けて、着々と物事を進めているようです。
8月25日の福井新聞は、「集団的自衛権へ新法」と見出しをつけ、自衛隊による行使手続きを定めた新法「集団的自衛事態法」(仮称)の整備に動いていると報じました。
すでに内閣法制局の長官に集団的自衛権に対する政府解釈見直しに前向きな小松一郎氏を起用しており、有識者懇談会の動きも含めて準備万端といった感じです。
福井新聞もこの問題について連日のように取り上げており、興味を持って見守っていたのですが、このあたりで一度書いてみたいと思います。
個人的には、集団的自衛権の行使に反対ではないのですが、やはり憲法改正によって自衛隊とその行動範囲を規定すべきであると考えており、このやり方には少々疑問です。
法治国家である以上、これまで継承されてきた憲法解釈を突然変えてしまうことには、やはり抵抗があります。
一応、8月14日付の福井新聞にこれまでの政府答弁がいくつか載せられていたので紹介しておきます。
81年5月29日
「わが国は国際法上、集団的自衛権を有していることは主権国家である以上、当然だが、憲法9条で許容されている自衛権の行使はわが国を防衛するため必要最小限度の範囲にとどまるべきと解され、集団的自衛権の行使はその範囲を超え、憲法上許されない。」
85年9月27日
「憲法9条で認められる自衛権発動としての武力行使には、①わが国に対する急迫不正の侵害がある、②これを排除するために適当な手段がない、③必要最小限度の実力行使にとどまるべき、の三つの要件が必要だ。」
さらに2013年5月14日には、当時の内閣法制局長官の山本康幸氏が、次のように答弁しています。
「集団的自衛権はわが国に対する武力攻撃にに対処するものではなく、他国に加えられた武力攻撃をわが国が実力をもって阻止する内容だから、その行使は憲法9条の観点で許されない。」
ところが24日の福井新聞は、「集団的自衛権 柳井座長提言へ 行使、全面容認を」と見出しをつけ、25日には新法作成の検討に入ったと報じられました。
一庶民からすると、「ちょっと待ってくれ」、という感じです。
そもそも集団的自衛権の問題があるので9条改正の議論がなされていたように受け止めていたので、なんとなく、憲法改正は難しそうなので、憲法解釈で乗り切ることにしたように見えてしまいます。
しっかりと議論を尽くせば国民の理解は得られるはずであり、憲法改正は可能だと思うので、憲法解釈の変更で乗り切ろうとするやり方はどうしても姑息に映ってしまいます。
仮に国民を説得する議論を尽くしたうえで、それでも国民がノーを突きつけるのであれば為政者はそれに従うべきで、それが国民主権というものだと思います。
また、議論している時間的猶予がないのかもしれませんが、それはこれまで先送りしてきた政治の責任であり、そのような政治家を選んできた国民の責任でもあります。
憲法改正に時間をかけるあまり有事に間に合わず、結果的に国益を損うとすればその責任は国民自身が負うべきであり、それが民主主義というものであろうと思います。
そもそも、憲法解釈が時の為政者の意向によってコロコロ変わってしまうという国の在り方は、法治国家としていかがなものかと思います。
周辺事態が緊張する中、集団的自衛権の重要性については十分理解できるのですが、正当な手続きを踏まないと、かえって政治不信を深めかねない気がするのでした。
ちょうど26日の福井新聞に共同通信社の世論調査が載り、内閣支持率が57.7%もあるのに対し、集団的自衛権の行使が「できないままでよい」が47.4%となっていました。
さらに、「憲法を改正してできるようにした方がよい」が24.1%で、「憲法解釈を変更してできるようにした方がよい」は、20.0%にとどまりました。
明らかに民意に反したやり方で突破を図ろうとしているように映り、印象は良くありません。
今の安倍総理に必要なのは、国民を正面から説得することであろうという気がするのですが・・・。
興味深いことに、前出の山本康幸前内閣法制局長は最高裁判所の判事に転出しており、20日の記者会見で次のように述べています。
「法規範そのものが変わっていない中、解釈の変更で対応するのは非常に厳しい。実現するには憲法改正が適切だろう。」
「憲法では、日本が他国から攻撃された場合に、必要最小限度で反撃する武力の保持は許される」
(集団的自衛権は)「そもそも日本が攻撃されていないことが前提の話であり、旧来の解釈を変えるのは難しい」
「改正するかどうかは国民の判断だ」
さっそく翌日、菅官房長官は不快感を表していたようですが、個人的には全くその通りであろうと思います。
そもそも、これまで継続して引き継がれてきた憲法解釈を、一部の人の考えでいきなり正反対に変えてしまうことには無理があるように思います。
最終的には最高裁判所の判断ということになろうとは思いますが、このまま突き進んだとして、どのようは判断が下されるのかは、それはそれで面白そうな気がします。
ちょうど25日の福井新聞に、麻生副総理のナチス憲法発言に絡めて、ヒトラー登場の背景についての論文記事が載ったので、次回取り上げてみたいと思います。