4月10日放送の、「マツコ&有吉の怒り新党」の感想です。
取り上げたいのは、「日本人が知っておくべき新三大〇〇調査会」のコーナーで取り上げられた、女子フィギュアスケートのスルヤ・ボナリー選手についてです。
スルヤ・ボナリーはフランス国籍を持つ黒人選手で、アフリカの孤児だったボナリーをフランス人の養父母が養子として引き取って、フランス人として成長します。
体操選手だった養父母の指導の下で体操の技術を身に着け、12才以下の大会で優勝するなど体操界での活躍が期待されたものの、フィギュアスケート界に身を投じます。
ちょうど伊藤みどりさんがジャンプで活躍したあとに出てきた選手で、その身体能力は素晴らしく、ほとんど助走無しでジャンプしまくる様子は圧巻です。
最初に取り上げられたのは1991年3月16日の世界選手権フリーの演技で、なんと女子では世界初の4回転ジャンプを決めて見せ、世界の度肝を抜いたのでした。
本人はうれしさのあまり、そのすぐ後に転倒してしまうほど喜ぶのですが、審査員はこれをスピード不足と見なして4回転ジャンプと認定せず、結局5位に終わります。
結局、女子フィギュア界の初の4回転ジャンプの栄誉は、11年後の2002年に安藤美姫選手のものとなるのでした。
次に取り上げられたのは、日本で行われた1994年3月26日の世界選手権フリーの演技です。
ちょうど、1か月前のリレハンメルオリンピックで、金メダルの最有力と目されながらもジャンプで転倒して4位に終わっており、4回転ジャンプを捨てて演技力に磨きをかけ、雪辱を期して臨んだ大会だったようです。
のっけからWアクセルを決めると、3回転+3回転+2回転を成功させるなど、高難度のジャンプを次々と飛びまくり、疲れがたまる終盤での3回転+3回転も見事に決めてみせ、最後の一人を残してトップに立つのでした。
最後の一人に登場するのが日本人の佐藤ユカ選手。
ホームの利点を生かして声援に包まれる中、のびやかな演技を披露し、高い芸術点を出して優勝をさらうのでした。
技術点では完全にボナリーが勝っており、納得のいかないボナリーは表彰台に上ることを拒否し、一筋の涙と共にメダルを外すことによってせめてもの抗議の意思を示します。
やはり高い技術を持ちながら芸術点に苦しんだ解説の伊藤みどりさんは、気持ちがよく理解できるのでしょう。観客からブーイングを受けるボナリーに対して、「これでボナリーはまた一つ強くなる」と語ったそうです。
最後は1998年2月20日の長野オリンピックです。
年齢的にも選手生活の終盤に差し掛かっており、アキレス腱を痛める中臨んだ最後の大会になります。
体調は決して万全ではないものの、ショートプログラムでは素晴らしい演技を見せるのですが、またしても芸術点が伸びず、採点の発表が続く中で席を立ってしまいます。
報道陣からの点が低すぎないかとの問いに、「もう慣れたし、泣きつかれた」との答えがせつなすぎます。
ショートプログラムで力を使い果たしたのか、翌日のフリーでは序盤からミスを連発し、ジャンプすればするほど表彰台は遠のいていってしまうのでした。
会場の重苦しい雰囲気の中、ボナリーは一大決心をします。
意を決めたような表情を見せると、なんと公式戦では禁止されている、後方宙返りの大技を決めて見せるのでした。
ビバルディの冬のBGMと共にすがすがしい表情で演技を終える姿に、思わずもらい泣きしてしまいました。
インタビューで、「今日は審査員より、観客にスケートを楽しんでもらいたかった。」と語って競技人生に別れを告げ、フリーに転向した現在もトレードマークとなった後方宙返りは健在で、観客を楽しませているようです。
マツコと夏目も涙で言葉が出なかったのですが、「黒人差別があった」とは番組上言えないもどかしさを感じながらの、気丈にけなげに理不尽な壁に立ち向かっていった一人の女性アスリートの姿に対する涙のように思いました。
オリンピックの陰に厳然と存在する人種差別という現実。
日本人が活躍する競技にはルール変更が相次ぐという事態も、黒人選手達の前に立ちはだかっているハードルの高さを思えばなんてことはないのかもしれません。
日本での二つの大会が印象的でしたが、日本だからこそ人種差別の壁が低いことを期待して臨んでいたのではないかと思うと、なんとなく申し訳ない気もしてしまいました。
歴史を俯瞰で見てみると、人類社会はまだまだ未成熟であり、自分も含めて変革していかなければならない分野は数多くあるように思うのでした。
目の前に立ちはだかる理不尽な壁にあきらめることなく挑み続けたボナリー選手の姿に、せめて今からでも世界初の4回転ジャンプの栄誉だけでも与えて上げたらどうかと思ってしまったのは判官びいきにすぎるでしょうか。
構えずに見ていたせいか、かえって印象深く残りました。
たまにこういうことをやってくれるから目が離せなくなってしまい、まさに制作サイドの思うつぼなのですが、今後もちょこちょことぶっ込んできてほしいものだと思います。
毎回だとさすがに重たいですが。