事務服の女性が来てから、会計の話になった。
私は7階に入院しているのだが、女性はこう説明した。
「マイナンバーカードの方は7階では100%の請求で出てしまいます。ただ、心配しないでください。1階の会計の時に保険が適用されますから」
え? **「ちょっと何言ってるかわからないんですけど?」**と私は事務の女性に伝えた。
「三日前に入院して輸血もして、まだ貧血が残っている状態です。昔、脱臼骨折で手術をしたときは、会計と薬をもらうのに非常に時間がかかってしまった記憶があります。
あの時は怪我だったのでなんとかなりましたけど、今の体の状態だと一人でやるのは不安です」
さらに続けた。「並ぶようなら貧血で倒れちゃうかもしれませんよ。ここで精算できないんですか? 薬は既に薬剤師の方が来て、ここで処方してもらってますよ」
女性は「確認してきます」と言って出て行った。
でも、全然戻ってこない。
費用への不安と、緊迫の帰宅手段検討
三日間の入院で、カードは使えるので支払い自体は大丈夫だが、いくらになるのか見当もつかない。
昔の脱臼骨折の時は10万円ちょっとだったので、今回の入院や輸血もあったから20万円近いのかな? いくら請求されても仕方ない。命を救ってもらったんだから。
今回の救急搬送から退院まで、医師や看護師に対しては一切の不満がなかった。
だからこそ、会計時にもたもたして気分が悪くなってしまっては、かえって申し訳ないと感じた。
もう退院は確定するのだから、パジャマは着替えよう。
退院の準備をしていると、看護師さんが来てくれた。
「退院後のことなんですけど、一か月後の月曜日の10時に外来で来てくださいとのことです。
特に朝から何も食べないでくださいなどの注意点はないです。
他に退院に当たってわからないことはありますか?」と看護師さんに聞かれた。
私は、さっきの会計の件を伝えた。
「さっき会計の女性が来て、7階だと100%の請求が出ちゃうけど、マイナンバーカードを1階で見せれば適正金額になるので安心してくださいって言われたので…」
私は続けた。「まだ貧血が残っているし、昔脱臼骨折した時、日帰り手術だったけど会計と薬をもらうのが大変で、昨日まで一人で歩けなかった状態だったのに、**会計で疲れて倒れてしまう可能性があるから部屋で精算できないのか?**と言ってから、ずっと帰って来ないんですけど」と伝えた。
看護師は少し驚いて、「え? 確認してきます」と言って出て行った。
しばらく看護師さんも戻ってこなかった。
私は、その間に帰る手段を考えていた。
地下鉄の駅までは徒歩10分くらいだが、今の体力では難しい。この病院を始発とする路線バスは、特定の方面へ運行しているが、その終点のバス停から自宅まで徒歩15分かかるため、これもまた難しかった。
コミュニティバスなら自宅から300mくらいのところにバス停があるが、利用したことがないし、本数が圧倒的に少ない。
タクシーもいろいろ面倒だし……。
最終的に、公共のコミュニティバスなら始発で30分で着くようなので、それに合わせて退院しようと決めた。
だいぶたって、会計の女性ではなく看護師さんが戻ってきた。
看護師さんは申し訳なさそうに、「システムでどうしようもないようです。すいません」と伝えられた。
ただ、「今の状態で、会計まで1階で全部やってくれなんて言えません」と看護師さんが続けた。
「すいている時間に合わせて車いすで1階までご一緒しますので、直ぐに精算できるように手配します」と言ってくれた。
私は、「とりあえず、自宅までコミュニティバスがあるのでそれで帰ろうと思っています。バスの時間がまだ3本あるんですが、それに合わせて帰りたいです」と伝えた。
「今は外来で非常に混んでいるので、次のは無理です。すいません。その次のバスに必ず間に合うようにしますので、ゆっくり休んでいてください」
嬉しい言葉だったが、会計の女性が来なかったことに激しく腹が立った。
「そもそも、会計の人間は何をやっている? 俺が貧血で倒れるリスクがあるのに、看護師に丸投げか?」
「看護師がここまでやることなの? 今までの入院患者でも過去にこういうケースは一度もなかったの? 俺が何も言わなければ、1階で外来で大混雑してる会計に並ばせていたわけ?
それに、この対応のせいで他の患者のケアができなくなるんじゃないか?」
結局、患者の回復より金なのか? 病院に対する不信感が退院前にして大きくなっていった。