なんやこの記事タイトル?何故だかこのフレーズが過ったんだから仕方がないだろ!


  映画『すばらしき世界』のレビューというか感想です。

主演、役所広司さん。監督は『ゆれる』、『永い言い訳』などの西川美和さん。


ポスター(パッケージ)だけ見ると、役所さんの肩にお絵描きしてあって、ドンパチ極道モノなんかな?って感じなんですけど。


この世界は 生きづらく、あたたかい。


あらすじ:ひょんなことから、殺人の罪で13年間の刑に服し、今度こそはカタギとしてまともに生きると決意し出所した三上が、上京して娑婆で見たものは…?(あらすじ適当)


『すばらしき世界』の感想/レビュー

先ず、三上を演じる役所広司さんの演技が、言うまでもなく凄い。凄んでみせてもおどけてみせても凄い。悲哀も苛立ちも十分に伝わってくる。上手い。上手すぎる!

そして、西川美和さん監督作品特有の、鑑賞後の余韻、重たさも十分に残る。サクッと面白かった、つまらなかったでは済まないような作品に思う。劇中はね、コメディパートもあったりヒューマンコメディを思わせる雰囲気はあるんだけれど、完全にヒューマンドラマであり、コメディに分類するならそれはブラックコメディですね。

別に劇中、このすばらしき世界(社会)をバザバサと斬ったりしているわけじゃないんですよ。

一部個人にスポットを当てて汚く、醜くは見せているけれど、日本社会全体をして貶すような撮り方をしているわけじゃない。

なんなら生きていけるよう生活保護などの社会福祉は充実しているし、三上の周りには、最初こそ私利私欲のために近づいた人間もいるにせよ、人情味に溢れた人間が集まり、殺人を犯した人間にしては恵まれているようにすら感じる。

オマケにこのような状況に堕しても、働く自由も働けないなら働かなくていい自由もある。病院にも行ける。ケースワーカーさんも急かしたりしない。誰も急かさない。まさに優しい世界だ。多分意図的にそう撮っているはず。



だがしかし、キャッチフレーズにもある通り、この世界は、生きづらく、あたたかい。これが全てなような気もします。

1か10、じゃなかったら0か100かでしか生きられないような極端な人間にとっては、尚のことそのように感じるのではないだろうか。

あたたかいは、換言すればぬるいである。

数ある助言なんかもぬるい甘言に感じてしまう。ゆっくりでいいと言われても焦ってしまう。そんな鋭さがこの映画にはあるように思う。

特に終盤、見ない、聞かない、見えない、聞こえないみたいなセリフはね、処世術としては正しいのであろう。だけれど、一人の人として、1か10かでしか生きられない人間として正しいのであろうか。

犯罪者が善悪や正誤を問うなどとちゃんちゃらおかしい話なのかもしれないけれど、だとしたら、一人の人間の尊厳というものはどこに行くのか。そもそも正しかったら何なのか、誤りであるなら何なのか。それを決めるのは誰なのか。


と、介護施設での胸糞案件以降、ダニエル・キイスの『アルジャーノンに花束を』を思い浮かべながら思った。

そう。この映画は『アルジャーノンに花束を』と比較すると、撮りたかったもの、伝えたかったことが分かりやすくなるかもしれない。かもしれないだけ←


ラストはどうなんだろう。どうしてそうなったんだろう。一つじゃなくて、二つも三つも要因となり得ることはあると思うので、根が深い。(奥が深い。)考察のしがいがある。


ほんで、長澤まさみはヒールでどんだけ走るねん!と。凄いな!と。


追いかけられたい!そして踏まれたい。


総評

星四つ!(5つ星満点)