顎顔面領域には、副鼻腔という鼻腔と繋がる空洞が存在します。

 

副鼻腔の機能は正確には分かっていませんが、吸気と呼気の湿度と温度を調整していると考えられています。

 

副鼻腔には、上顎洞、篩骨洞、前頭洞、蝶形骨洞の4つ(左右8対)があります。

 

これらのうち、上顎洞は上顎の奥歯のすぐ上、眼窩の下にあり、しばしば歯の不具合により炎症を起こします。

 

これは、奥歯の歯根と上顎洞が非常に近接しているために起こります。

 

 

上顎洞炎には、歯性(歯が原因のもの)と鼻性(鼻や耳が原因のもの)に分かれます。

 

CTを撮影すると分かりますが、鼻や耳が原因と判断される場合には歯に異常がなく、逆に歯が原因の場合には鼻や耳に異常がないということになります。

 

当然ながら、歯に上顎洞炎の原因がある場合には歯の治療を、耳鼻科領域に原因がある場合には耳鼻科での治療を行います。

 

しかしながら、歯と耳鼻科領域の両方に複合的に炎症の原因が存在することもあります。

 

このような場合、歯科と耳鼻科の両方からのアプローチが必要になります。

 

耳鼻科でのアプローチは、程度にもよりますが、抗生物質の少量長期投与を行うことが多いようです。

 

 

歯科において上顎洞炎の原因となりやすいのは、虫歯や歯髄壊死に継発した、あるいは不良根管治療による根尖病巣(慢性性根尖性歯周炎)と、重度歯周病(慢性辺縁性歯周炎)です。

 

特に、根尖病巣は上顎洞に近接した歯根の先端に炎症が起こるため、上顎洞炎を惹起しやすいです。

 

この場合、根管治療をきちんと行うことが上顎洞炎を治癒に導くために必要になります。

 

しかしながら、この上顎臼歯部(奥歯)の根管治療は器具が入りにくく見えにくいため非常に難しく、正しく行うことは非常に困難なのです。

 

 

歯性上顎洞炎のCT画像。上顎第二大臼歯(一番の奥の歯)の根尖部の骨が溶け、上顎洞内部に白い陰影を認める(矢印)。歯を治療してあるものの、根管治療を施された形跡がないことから、虫歯に継発した歯髄壊死による根尖病巣が原因と診断し、根管治療が必要と判断した。患者んさんは歯の痛みや咬合痛のほかに、慢性的な頭痛や鼻閉、鼻汁を訴える。

 

 

根管治療後CT画像。正しく根管治療を行ったことで根尖病巣が治癒し、術前にあった上顎洞内の白い陰影(上顎洞炎)も完全に治癒しているのが分かる(矢印)。

 

 

上顎洞炎は、まず原因が歯か耳鼻にあるかを見極める必要があります。

 

歯が痛くて歯科医院を受診しても歯に問題がない場合、原因は鼻や耳(鼻炎や中耳炎等)にある可能性があります。

 

これを見極めるには、CTによる診査が欠かせません。

 

歯の治療は、ほとんどが不可逆的な(後戻りのできない)治療です。

 

原因が分からないときは、決して歯をいじってはいけません。

 

治療の成否は、正しい診断にかかっているのです。