「私」と身体についての表現
今日も、東郷先生の著書『中級フランス語 あらわす文法』から。
amazonのレビューの方も何人か書いていますが、この本、興味がニッチすぎて中級文法の域を超えてますね・・・。言語学が好きな人なら必読の一冊。
今日読んだのは、身体や感情の表現について。
日本語について身体を使った表現ということを言えば、「頭が痛い」「足がもつれる」「腹が減った」など。
いずれについても言えるのは、「だれ」という説明がないこと。
もちろん答えは「私」なのですが、日本語には自分の身体への特別な視点というのはなく、自分も他人も「頭」「足」「腹」と言葉少なに表現します。
フランス語だとこれが違う。たとえば「頭が痛い」は
J’ai mal à la tête.
と表現します。ちなみに「腹が減った」はJ’ai faim.ですね。
いずれの表現においても、「私は(Je)」という但し書きがついてます。
東郷先生曰く、フランス語は<actor-action>という「誰が」「何をする」という説明を求められる言語とのこと。主語と述語の結びつきを非常に重要視します。
私が印象に残った例文に次のようなものが。
Il m’a tapé sur l’épaule.(p158)
「彼は私の肩を叩いた」というものですが、Il a tapé mon épaule.とは言いません。
日本語だと「肩」を叩いたことが強調されますが、フランス語ではまず「私」を叩いたことが強調されます。
面白いのは、「私」と「肩」という概念が分けられていること。「あなたの体じゃないの?」と言いたくなりますが、このように「私」を身体と区別するという言い方はフランス語ではよく見かけます。
たとえば
la tête me tourne.(p163)
「頭がくらくらする」程度の意味ですが、直訳すると「頭が私をくらくらさせる」。
変だな・・・と思って「私の頭がくらくらする」を日本語にそのまま置き換えるとmon tête tourne.。でもこれだと「私の頭は回転する」になっちゃう。・・・ナポレオンズの例のマジックか?
これじゃないです。
いずれにせよ他動詞と自動詞で大きく意味が変わっちゃうから、やっぱりダメなんですね。
なんで「私」と身体を分けたがるんだろう?と考えましたが、「誰に」「誰が」という情報はフランス語の中でも特段に重要視されている、ということではないかと思います。多分。
ほかに面白いと思ったのは、
Ça m’a étonné.(p160)
「そいつは驚いた」という意味ですが、直訳すると「それは私を驚かせた」。
日本語だと「私を~した」という言い方をあまりしないので、「私」という主語をちょっと意識した訳でないとスッキリしません。
このあたり、日本語には無い感覚を取り扱っているので中々難しいかもしれませんが、「誰」という情報に特別な意識を向けることでいずれ慣れてくればと思います。ご参考に。
ではでは。