ここはのどかな場所だな。

 

目覚めるもの、川霧に浮かぶもの、踏みつけてきた砂粒までもが、僕の居場所を教えてくれる、振り返ることを許すように。

 

ぎゅぎゅうと不安の重みを敷き詰めて歩く、どうもやはり一人分だけだ。君の髪の匂いもしそうにない。

 

目をつむれば、いつでも僕は君の部屋にいるのに。

 

 

ごめん、一緒に朝のコーヒーを飲めないんだ。

 

人のせいでも親のせいでもない。

 

赤が好きだと言った君がよろこぶように、青が好きな僕はこの朝焼けが好きだと言った。

 

ずっと先にだって君がいてくれそうな気がしてた。

 

ため息で部屋が温まるくらい一緒にいられる気がしてた。

 

眠る時間がずれてきて、話したい時に季節すら変わっていたり、気持ちをたくした君好みの便箋は、もう、言葉を伝えるよりも涙で湿らすほうがふさわしいかもね。

 

どうしてこんなにも励ましてくれていたのだろう。

 

君から受け取った写真集の隙間からこぼれた手紙を読み返し、あまりにも気持ちがあふれていた、下線をはみださない几帳面な文字。

 

たくさん書こうとしていた君が、贈ってくれる言葉のアルバム。

 

 

ずるく生きたい。

 

おねだりして、手櫛代わりに爪をたてるから。

 

君が好きなものを、君よりもはやく見つけて渡したい。

 

君がほほ笑むすべての場面を、君が生まれる前に見たい。

 

君が言葉を知る前に、その小さな体をこの腕で抱きしめたい。

 

君が信じる神様を、僕もいつか出会えるように、両手で空に祈るような君の素直さを分けて欲しい。

 

 

ねぇ、神様?

哀れでもなく、障害でもなく、何も考えずに幸せになれると信じあった二人の、何故か分らぬ現実の別れは、この星満ちるどこで光っているでしょうか?

 

 

「誰とも結婚しないわ」

ガブリエル・ココ・シャネル