【シリーズ】癌治療と水素療法

 

前回は、水素療法が初めて癌治療に応用されたきっかけについてでした。

あれから14年、癌領域への応用の現在の流れについてです。

癌の発生は、老化現象と同じく、エネルギーを生産するミトコンドリア内で、酸素を消費したのちにできる活性酸素 によって引きおこされます。
活性酸素種はいくつかあるのですが、そのうち細胞や遺伝子に障害を引きこすのは、ヒドロキシラジカルだけであると言っても過言ではありません。(図引用:Newton Doctor)




私自身、癌化は、一種の老化現象によるものと考えています。

このことは古くから知られ、いかにしてヒドロキシルラジカルを消去する技術を確立するかが、癌の発生や老化を抑止する上で重要なことでした。
 

その為に、抗酸化物質は非常に多く研究されました。
 

1976年にポーリングらは、ビタミンCを大量投与すると活性酸素除去されることを発見し、キャメロンとポーリングらは実際に病院で1000人の癌患者に試したところ有効であることを報告しました。
(参照文献:Ewan Cameron, Linus Pauling. (1976) Supplemental ascorbate in the supportive treatment of cancer: prolongation of survival times in terminal human cancer. Proc Natl Acad Sci USA, 73:3685-9.

しかし、彼らの研究は、対照が過去の癌患者のデーターとの比較であり客観性に欠けることや、もっと精度の高い無作為二重盲検比較の臨床結果により、検証したところ、ビタミンC投与群とプラセボ群では進行がんに対する抗腫瘍効果を実証することができなかったことが報告されました。

(参照文献:Edward T. Creagan, M.D., Charles G. Moertel, M.D. et al. (1979) Failure of High-dose Vitamin C (Ascorbic Acid) Therapy to benefit Patients with Advanced Cancer. N Engl J Med. Vol. 301, No. 13: 687-690. N Engl J Med. 1985, vol. 312, No. 3, 137 – 141

さて、今でも日本では、ビタミンC大量投与法は行われていますが、私自身は次の理由で効果は?であると思っています。

1)活性酸素はミトコンドリアの内部に作られる、ビタミンCはミトコンドリア内部に到達できないので、非効率である。


2)24時間高濃度のビタミン投与は困難である。(効果は一時的で限定的


3)ビタミンCは、抗酸化作用がある反面、高濃度に摂取すると、逆にヒドロキシラジカルの発生を促進させることがある。
(参照:ビタミンCの真実
Yoko Inai, Wenixiang Bi, Noriyuki Shiraishi and Morimitsu Nishikimi. (2005) Enhanced Oxidative Stress by L-Ascorbic Acid within Cells Challenged by Hydrogen Peroxide. J Nur Sci Vitaminol, 51, 398-405)


4)ヒドロキシラジカルに特異的に働くのではなく、免疫などの関与する有益な活性酸素を消滅させるリスクがある。


現在,研究の最前線では「ビタミン類によるミトコンドリアの酸化ストレス障害に対する有効性は悲観的である。」というのが現実です。

水素は、このようなビタミンCをはじめとする抗酸化剤の弱点を克服する分子です。

癌への応用研究は、高々10年余りにすぎませんが、分子状水素医学は急速に開発が展開している研究分野なのです。

慶應義塾大学 環境情報学部(武藤佳恭 教授)らは、「疾病の予防と改善のために大量の水素を積極的に摂取すべきである」という「メガ水素主義」を提唱し、癌に関する研究が世界的に行われるようになりました。

水素のすごいところは、そもそも、水素は腸内でつくられるもので、免疫に非常にかかわっています。

老化とともに腸内で、水素産生量が減少して老化が起こると同時に癌化が起こることがわかっています。

その結果、老化に伴いヒドロキシラジカルの量が増えることが、老化やガン化の最初に起こるステップであることが最近(2018年)明らかになりました。
(参照:Anzu Suzuki, Mikako Ito, Tomonori Hamaguchi, Hiroshi Mori, Yuka Takeda, Ryuko Baba, Takeshi Watanabe, Ken Kurokawa, Susumu Asakawa, Masaaki HirayamaIDKinji OhnoD(2018) Quantification of hydrogen production by intestinal bacteria that are specifically dysregulated in Parkinson’s disease. PLoS ONE 13(12): e0208313.)

水素療法の特徴です。

1)ビタミンCやそのほかの抗酸化物質が不可能である、ミトコンドリアの内部に直接浸透して、発生直後のヒドロキシラジカルを消去できること。

2)いくら吸引しても無害で過剰な水素は呼吸で排出され副作用がない。

3)水素の摂取方法は、吸引法や水素水、腸内産生法を組み合わせると24時間対応できるること。

4)水素分子間の水素結合は強固で、正常細胞に影響を与えない。

5)吸引法は血行促進作用があり、瞬時に全身に供給され即効的効果が期待できる。


この10年の間に、癌だけでなく多くの慢性炎症を伴う、難治性の疾患に対して、水素療法が研究評価・臨床応用され、まさに「メガ水素主義」時代を迎えようとしています。

しかし、私は疑い深いので、そんな素晴らしいことばかりではなく、ネガティブな報告もあるのではないか?

と思い、水素療法関係の基礎研究及び、臨床研究で、今までに、報告されているすべての論文をAI検索にかけて、調べたところ1件だけ懐疑的な論文を見つけました。

通常は、もっとあってもいいのではないかと思うのですが・・・

これは、研究そのものが新しく、研究数が少ないからかもしれません。

それについては後日報告します。

次回からは、この10年ほどの間に明らかにされてきた、癌治療への報告について紹介していきます。