SET LIST

氷菓子

青春なんて

ギャルになりたい

抱きしめたいの

短くばっつり切りそろえた綺麗な金色の髪の毛と、裾がひらひらした黒いワンピースに、シルバーのアクセサリー。

『氷菓子』から。♪霜焼けの指絡めてで左手を伸ばす。2階からでも揺れる指先の繊細さがわかる。

「普段よく来てたこの場所を見回すと、高校生の私がどこかにいるみたいな気がします」と言ってたくさんの人が集まる観覧エリア、その後ろまで見渡した。もしかしたらどこかに2008年くらいのわたしもいたのかもしれないとはっと気づく。

「皆さんの前では初めて歌う」とすごくすごく緊張して歌い出す『青春なんて』。一回目は最初の♪ただ風にの前に歌詞飛んじゃって「もう一回！」ってキーボードのお姉さんと呼吸を合わせてテイク2。

♪愛してるの真似事でもの優しい歌い方に泣きそうになった。わたしも奥さんと青春をしていたのだろうな、あのころは気づかなかったけれど。幼くて、拙くて、ままごとみたいな青春でも、たしかに。

次の曲はさっきよりもっと緊張してそうだった。「みんなギャルになりたいよね？」でもなれなかったからこそ憧れを歌に換えて。『ギャルになりたい』。

1サビ♪プリクラ貼ったらで伸ばした左手の指先にキラキラの先の尖ったネイルが見えるような気がした。もちろんギターを弾く人だからそれは幻覚なんだけど。

♪瞼のラメもそう。瞼から鱗のようにキラキラが零れる。

♪ギャルになりたい歌ってマイクをお客さんに向けてくれた。ここコルレスなんだ！？そうだねわたしもギャルになりたかった。あかるくてつよい。

リリイベ前にうどん屋でたまたま会った好きなオタクが隣で泣いてるのがわかった。ギャルなアイドルのことが好きな同担ちゃん。

♪ぜったい大丈夫丁寧に最後の音を歌いきってから、きゅっと指を閉じて、「大丈夫」とちいさく、だけどつよく、笑いながらつぶやいた。ああ大丈夫なんだなあ。

「どの曲もお気に入りなんですが、その中でもえこひいきしちゃう曲です。──『抱きしめたいの』」

これが最後の曲でした。2サビで上手側の2階3階を見上げて手を振って歌ってくれた。“私が私を抱きしめたい” 歌だけど、このひとは歌で他人を抱きしめてくれてくれるひとなんだなあと思った。

『今日はまだ心から愛せなくても許せなくても』、許せないことを許して、許してっていうか認めてくれるひと。

これ聴けて、今日来て良かった。

『若草』によせて。

吉澤嘉代子さんをはじめて見たのはたぶん2015年で、8年も経てば嘉代子さんもわたしもそりゃあまあ色んな変化があるはずで、“歳を取る” ということをあらためて考えた。もうとうの昔に通り過ぎてわたしには二度と訪れない “青春”。後悔はしてない。ただ子どもたちを見ると羨ましくはなる。その手のひらの中の無数の選択肢。青春は何度でもやり直せるなんて嘘だから。

それから8年の間にわたしの人生そのものになってしまったアイドルのこと。

でも『一緒に老いていけるなら悪くない』なんだろうな。それが嘉代子さんや推しメンとだいたい同じ世代に生きているわたしの人生の勝ち確なのだと信じて、わたしは明日も早朝から新宿二丁目に行く。

サンシャイン出たらめちゃくちゃちゃんと冬だった。わたしも、推しメンも、またひとつ歳を取る季節だ。

『若草』リリース記念イベント(11/15池袋)/吉澤嘉代子