『パタリロ!』は、もしかしたら、私が最初に読んだ漫画かもしれない。
ずっと昔。おばあちゃんが幼い私と、いとこの女の子の2人に「絵本を買ってあげようね」と本屋に連れて行ってくれた。私は平積みされていた『パタリロ』の当時の最新刊(17巻だったと思う。「うそなのよ~~~ん」のお尻3連ギャグが収録されてるやつ)を手にとった。
「それ、おもしろいの?」と、いとこも真似して17巻を手にとった。そして、お尻のギャグに大ウケし、彼女もこの本のファンになった……という記憶がある。
「この漫画はね、読んでると知識が増える気がするの」
当時、漫画といえば学研の”ひみつ”シリーズか、小学館の”日本の歴史”と”世界の歴史”しか、読むことを許さなかった母親にこんな言い訳をしながら、堂々と目の前で読んでいた。だが次の瞬間、
「ね、ママ。”ダッチワイフ”って何?」
この一言で『パタリロ』は母から読むことを禁じられた本、第1号になった。
そういう訳で、ちゃんと読んだのは、友だちの間でブームが起きた中学生以降なのだった。
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物語全体の【あらすじ】の代わりに、ファンの間で最も人気が高いと言う、花とゆめコミックスの10巻に収録されている、”Fly Me To The Moon”のお話をご紹介。(手元にないので一部ウロ覚え)
10歳の天才少年パタリロが、国王を務めるマリネラは常春の温かな国。
マリネラの国立植物園に務める若き研修員は、弱っている動物や植物を癒し、回復させることができるという、不思議な力を持っていた。
その力を目の前で見たパタリロは、すぐに金儲けの算段をする。そして研修員に「お前の能力で金儲けが出来たら、褒美として何でも願いを叶えてやる!」と約束する。研修員の夢はロケットに乗って月へ行くこと。ガガーリンのことやアポロ号のことを嬉しそうに話す研修員なのだった。
研修員が次々と世界中の人々の病気を治し、巨万の富を得たパタリロは、さらに欲深くなる。だが、パタリロの部下、タマネギ部隊の連中が研修員の体調不良に気付き、医者にかからせる。すると、なんと研修員は他人の病状を治しているのではなく、自分の健康を他人に与えているのだということが、判明する。そして、「もはやこの研修員は立っているのがやっとの状態であり、これ以上続けると彼の生命が危ない」と医者は言う。
その話を聞いたパタリロは、すぐに病人の募集をやめる。しかし、「ここまで待っていたのに、急に取りやめるとは何事だ!」と乗り込んで来たのは、友人(?)のバンコラン。彼は「世界の平和を担っている、とある司教が危険な病状で、司教が亡くなると世界は戦争に突入してしまう恐れがある」とパタリロに告げる。
パタリロは反対するが、司教の話を聞いた研修員は、もはや自分の体が支えられない状態でありながら、助けに行きたいとパタリロに言う。バンコランと医者の意見に気持ちを大きく揺さぶられつつも、意を決したパタリロは、研修員に「この仕事の後に必ず月へ連れて行く」と約束する。
ベッドの横で司教の手を取る研修員は、能力のありったけを費やし、そしてベッドに伏せる。やがて司教は何事もなかったかのように穏やかに目覚め、「この方はどなたかな?」と周囲の人に問う。研修員の手が司教の手から、静かに落ちた。
研修員の死を聞いたパタリロは、なぐさめようとするバンコランを突っぱね、植物園の中で膝を折って、一人泣く。パタリロの耳に、研修員の「月に行ってみたいんです」という声が響くのだった。
というお話。こんな哀しいお話でも、小さなギャグはしっかりと掲載されていたりする。そんなところもこの漫画の魅力。