忘れられないあの人の匂い・・・
静かな夜に目を閉じると思い出すあの人の匂いが不思議と蘇る。
あれは16歳の頃に一度だけ人生で最高の出来事だった。
いつも通りに下を向いて歩いていた私に声をかけてきたあの人。
名前も知らなければどこに住んでいる人かも分からない。
満面の笑みで優しい声で囁くように話しかけてきた。
私もどうかしていたのか、その人の笑顔に引き込まれカフェに行き飲めないブラックのコーヒーを飲んで少し背伸びした。あの人の笑顔とコーヒーの苦さと匂いだけしか記憶になく、話した内容は全く覚えていない。
どれくらいの時間あの人と居たのかも分からないし、どうやって家に帰ったのかも覚えていない。
下を向いていた私に覗き込むように話しかけていたので、次第に私も顔を上げて聞いていた唯一の時間だったかもしれない。そんな人生でかけがえのない時間は二度と来るはずもなく、毎日が苦痛の時間だけれでも自分が壊れそうになった時に不思議と静かな夜になりあの人の匂いを思い出す。
「元気 にしていましたか?あの時はありがとうございました♪」
こんな風に声をかけることも出来ないし、もし奇跡が起きてあの人に出会っても言える勇気はないと思うけど、もし本当に神様がいるのなら自分が自分でいられる間に会いたい。
あの時と同じ匂いで・・・