「あ~っ、もうダメ!」

 

会社の昼休み、

仕事で嫌なことがあって、

 

半べそかきながら

私は近所の神社に駆け込んだ。

 

 

 

「んもぅ~っ、何よ、アンタ。

 今日もブッサイクねぇ~」

 

 

 

こんもりした木々の繁る参道を抜け、

鳥居をくぐると、

 

オネエのますみちゃんが

すかさずツッコミを入れてきた。

 

 

 

 

「もうやだ。

 死ぬ。仕事嫌すぎて死ぬ」

 

 

「ぶぁあああかっ!

 お天道様の下さったお仕事、

 そんな風に言うもんじゃないわよ!」

 

 

「だってやなんだもん!

 こき使われて、身も心も、ズタボロよ!

 もう、体、マジで限界。

 

 病気で倒れるしかない… 

 そうゆう運命なのよ!」

 

 

 

 

 

ああ、なんて私って不幸なんだろう。

 

 

自分が不憫で、

私は思わず涙した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アホ抜かせやゴルァッ!

 それアンタの願望でしょ?

 

 バッカじゃないの~っ、

 病気しか仕事休む理由見つけられないなんて!」

 

 

 

「うっ…。

 これだから、オネエは嫌い。

 オンナにキツい。グサッてくることゆう」

 

 

 

「…図星ってことじゃない、フンッ」

 

 

 

 

煙草の一本もふかしそうな様子で、

ますみちゃんは心底呆れていた。

 

 

 

 

「ビョーキで倒れないと休めないとか、

 会社サボることもしないで会社辞めるとか、

 その心が病の巣窟よ!」

 

 

「そんなヒドい!!

 会社はサボれないのに!」

 

 

「なんで?」

 

 

「えっ…?

 さ、サボるの、悪いことだから…?」

 

 

 

 

ますみちゃんはチッと舌打ちした。

 

 

 

 

「アンタさぁ、

 倒れる前にサボらないで、

 どーすんのよ?

 

 急にぶっ倒れたり、

 辞められたりする方が、

 よっぽど迷惑だっつーの!」

 

 

 

ますみちゃんは本気でキレた。

 

 

 

「え、え、え」

 

 

 

「そんなかわい子ぶっても、

 もうかわいくないわよ!

 アンタの年、考えなさいよ!」

 

 

 

ますみちゃんは怒りの余り、

岩から飛び出しそうにフルフルした。

 

 

 

 

「心の栄養は、

 ブッ壊れる前に注がないと、

 意味がないって言ってんの!

 

 ビョーキになって休む前に、

 自らの意思で心を守れっつってんだよ

 コノヤロウ!」

 

 

 

ちょうどその時、

ざっ、ざっ、ざっ、と、

誰かが砂利を踏む音が聴こえた。

 

 

 

「チッ。

 とにかく、サボんなさいよ、ドブス!」

 

 

 

ますみちゃんはしゅるるっと

岩の中に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

足音の主は、

老いた男性だった。

 

 

 

男性は

しめ縄のかかった岩に手を合わせると、

涙目の私を見た。

 

 

 

 

「おじょうさん、

 この岩、拝んだら、

 貴方の悩みも解決しますよ」

 

 

 

にっこり笑った

おじいさんが背を向けると、

 

ますみちゃんの高笑いが、

入れ替わりに聴こえてきた。