彼は、決意を言葉で宣言するタイプではない。
あらかじめ予告もせず、
勢いで動くこともない。
むしろ、大切なことほど静かに熟成させていく。

そしてそのプロセスは、
外からはほとんど見えない。

けれど私には、わかってしまう。

彼が「何かを決めようとしている」時の空気。
その沈黙の深さ。
言葉の選び方の粒度。


誰にも伝わらないような小さな要素が
彼の内面の変化を教えてくれる。

最近の彼には、
ひとつ特徴的な『兆し』がある。

質問が少しだけ具体的になる。

たとえば、
以前なら雑談として流れていった話題に
少し踏み込んで聞いてくる。


未来をどうするか
その形ではなく、
こちらの価値観を確かめるかのようだ。



私に決めさせるためでも、
誘導するためでもなく、
ただ純粋に知っておきたいという温度。



彼は本当に決めようとしている時もやはり、
支配も、焦りも、誘導も何ひとつない。



ただ、
「あなたの未来に迷惑をかけない選択をしたい」
という静かな意思だけがある。



その真剣さは、
言葉になれば軽くなってしまうような種類のもので、
沈黙こそがいちばん彼らしい答えになる。




そして
彼はまだ何も言っていないのに、
『自分の中ではもう答えがほぼ出ている』
ということだけは伝わってくる。




決意というのは、
宣言ではなく、
行動の前の静かな呼吸に宿るのだと
改めて思う。



私の前だけで、
彼はその呼吸を隠そうとしない。

答えはまだ分からない。

ただひとつ確かなのは、
彼が決める未来のどの地点にも、
私という存在の重さを
ちゃんと計算に入れているということ。

その事実だけで、
十分すぎるほど救われている。