彼を見ていると、
つくづく「感情で動く人ではない」と思う。

衝動で連絡してくることもないし、
気持ちに任せて何かを言うこともない。
むしろ、どんな言葉よりも
『態度の安定』で示してくるタイプだ。

だからこそ彼は、
一度決めたことをそう簡単には変えない。
揺れない。
途中で気持ちが暴走することもない。

それは若い頃から変わらない彼の性質で、
良くも悪くも『理性の人』だ。

だけど、
最近、その理性の奥にある小さな変化を
私は確かに感じている。

それは、
恋の高揚でも、
焦りでも、
奪いに来るような熱でもない。

もっと静かで、
もっと誠実で、
潔い何か。

たとえば、
帰り際にふと目が合う一瞬。
以前よりも長く、
まっすぐに見てくる。

そこに揺れはないけれど、
「あなたを大事にしている」という
言葉にならない感情だけが
ぽつりと灯る。

それが、
彼が私の前だけで見せる
唯一の『感情の動き』だ。

そして私は、その小さな灯りを見逃さない。

恋人でもない、
夫婦でもない。
肩書きや関係の名をつけようとするなら
どれも当てはまらない。

だけど、
あの視線を知っている人は
世界の中で私だけだ。

理性で生きる人の中で、
ふと漏れてしまう『感情の粒』。

その存在が、
何よりの誠実さであり、
何よりの愛情なのだと思う。

彼の気持ちは暴れない。
暴れないからこそ、真剣だ。

そして私は、
その静かな真剣さを
怖がらずに受け取れるようになった。

やっと、そういう場所まで
ふたりで来られた。

静かで、強くて、柔らかな関係。

揺れない彼と、
揺れたくない私が、
ようやく同じ時間に
そっと並んで立っている。

その『静かな立ち位置』が、
今の私たちにはいちばん自然だ。