彼とといるとき、
言葉より先に『空気』が変わる瞬間がある。

それは、声のトーンでも、表情でもない。
もっと深いところ、
「決めた人の呼吸」みたいなもの。

最近の彼の中に、
その空気を感じることが増えてきた。

はっきりした未来を語るわけではないのに、
沈黙の質が、少しだけ前向きになる。
視線の奥に、迷いよりも覚悟の影が落ちる。

たとえば、
帰り際に玄関で靴を履く時間。
以前よりゆっくりとした動作で、
何かを確かめるように私を見る。

その一瞬に、
彼の中で進んでいる『静かな決断』が
ふと滲む。

彼は大きなことを言わない。
自分の感情だけで動く人でもない。
だからこそ、
そのわずかな変化は、言葉より重い。

私は急かさない。
結果を求めたり、未来を確定しようとはしない。

彼が自分の人生をどう組み替えるかは、
彼自身の領域であり、
彼だけが責任を持つべきところ。

だけど、その過程をそばで静かに見守れる自分が、
少しだけ誇らしい。

何も求めないことで、
彼の決断がより彼らしくなるなら、
それがいちばんいい。

自分の人生を選ぼうとする彼の姿は、
どこか懐かしい。

20代の頃、
彼は大それたことを言う人ではなかったけれど、
周囲から自然に信頼されるタイプだった。
その落ち着きや誠実さを、
私はどこか安心して見ていた。

静かで、
まっすぐで、
言葉以上に『態度』で示す人。

そんな彼らしさが、
今また目の前に戻ってきている。

理解された分だけ、
人は誰かを理解できる。

尊重された分だけ、
誰かの未来を邪魔せずに待てる。

こうして、
ふたりの関係は「説明」でつながるものから、
「理解」で重なりあうものへ
静かに変わりつつある。