何も言っていない。
何も始めていない。

それでも、彼女にはすでに伝わっている気がする。

言葉ではなく、
空気の温度や、沈黙の間にあるもの。
そこに、自分の変化が滲んでしまうのだろう。

彼女は何も聞かない。
それが、ありがたかった。
詮索も、確認もしない。
ただ、静かに受け取ってくれる。

その穏やかさの中にいると、
自分の輪郭が少し戻ってくる。

誰にも気づかれないまま、
長い間、どこかに置いてきた自分が
少しずつ、戻ってくる感覚。

言葉にしなくても伝わることが、
この世にはほんとうにある。
それを知った今、
もう以前の静けさには戻れない。