何も言わない方がうまくいく。
そう思って、長いあいだ黙ってきた。




家族を守るとは、余計なことを言わないこと。
波を立てず、穏やかに過ごすこと。
そう信じてきた。




疲れていても、黙って食卓につく。
仕事の話はしない。
不機嫌そうに見えないように、
できるだけ穏やかな声を出す。





「優しいね」と言われることもある。
でも、たぶん違う。
優しさではなく、ただの静けさだ。





家の中にいながら、
どこか外側から見ているような気がする。
笑っていても、そこに気持ちがあるわけじゃない。
空気を壊さないための笑顔だ。






気づけば、
自分が何を感じているのか、あまりわからなくなった。
腹が立っても、すぐにその感情を片づける。
疲れたときも、言葉にしないうちに消えていく。






穏やかであることは悪くない。
でも、ときどき思う。
この静けさの中で、本当に息ができているのかと。