先日、友人と計画していた登山をどうしようかと悩んでいた。
天候が安定しない状況なのだ。
初心者同然の私達が、悪天候の中,初めての山を登るのはかなり無謀な気がしたため、一旦は中止にしたのだが、とりあえず現地まで行って様子見をしようとでかけることにした。
登山口まで車で二時間、運転している間ずっと雨は降っていた。小雨かと思えば、大粒の雨がどっと降ってきたり、とにかく天候が安定しない。
そんな中、山の麓に差し掛かったあたりで驚きの光景を見ることになった。ゼッケンをつけた選手が山から続々と走り降りてくるのだ。
これは!!と思った。
トレイルランニングである。
トレイルランニングとは、山や森等の自然の中を走るスポーツ。
以前、NHKの番組でこのスポーツを知った時の驚きは半端がなかった。急峻な山々を最低限の軽装備でしかも走り抜けるなんて、考えてもいなかったからだ。
マラソンも登山も、どちらも大変なスポーツだと経験して心底思う。だからこそ、トレイルランニングの凄さを驚きをもって見ていたのだ。
平地を走るだけでも大変なのに、足場が安定しない山道を走るのは簡単な事ではない。しかも、この日はあいにくの雨模様。平地での雨とは違い、山での雨は寒さや疲労をより一層誘う。足場も雨に濡れて非常に滑りやすい。その雨の中を走っているのだ。
この日は、麓からスタートして山の頂上に向かいそこから下山して麓でゴールというものだった。全長約37kmを11時間以内で走りきる。
彼らは、私達が予定していた登山口よりも、もっと下から出発していた。
スタートは7時だったようで、私達が麓に差し掛かったのが11時をすぎたあたりだった。見かけた選手達は、4時間弱で山を登って降りてきたという計算になる。
登山口から頂上まで普通に歩いて約3時間と言われているところを、更に長い距離、往復してこの時間・・・信じられなかった。凄い人達がいるなぁ・・・と友人と話ながら登山口へ向かう。
登山口についても天候は一向に回復の兆しはない。しかも、雨足はさらにひどくなる一方。それでも、とりあえず雨の装備をして歩けるところまで歩いて行ってみることにする。
登山道を進むにつれ、岩場が多くなってくる。降り続く雨が小川のようになって登山道を流れてくる。登山口で、先日登った山の頂上とほぼ同じくらいの標高。空気が薄い感覚があった。下界とは身体の動き方が違う。
ゆっくりゆっくり歩くその脇を、トレイルランニングの選手が続々と駆け抜けていく。見事な走り、見事な肉体。
彼らとの体力の差をまざまざと見せつけられた瞬間だった。
当たり前だが、上には上がいるものだと思った。
雨足がひどくなってきたのと、時間的な関係である程度のところで山を降りることにする。
その後、近くの温泉へ足をのばした。
そこに、若い女の子の団体がマイクロバスに乗ってやってきた。
見たところ、何かのスポーツをやっている子達のようだ。
温泉内で一緒になったので、話しかけてみると高校の陸上選手達だった。黒人の女の子もいたので、もしかしたら駅伝かな?と思っていたが、やはりそうだった。
高校のスポーツ科に所属しているらしく、かなり本格的に身体を鍛えている。皆、見惚れてしまうほど綺麗な身体をしていた。
運動をしているため、細く引き締まっているのはもちろのこと、姿勢がよく、清々しい。ギリシャ彫刻のような素晴らしさといえばわかるだろうか。アスリートの身体を間近で見たことがなかったが、こんなに綺麗なものか・・・とつくづく思った。先ほど垣間見た、トレイルランニング選手達にも感じた、綺麗さだった。
彼らに共通しているのは、姿勢の良さである。
以前、元スピードスケーターの勅使河原郁恵さんの歩きを直に見たことがある。上半身をぶらさずに颯爽と歩く姿は、綺麗で優雅だった。
本人にどうしたらそのように歩けるか聞いてみたところ、お腹から歩くというアドバイスをいただいた。
これは体感でわかるのだが、お腹に力が入らないと姿勢が保てない。しかし、力を入れ続けることが容易には出来ない私は、気を緩めるとすぐに姿勢が悪くなる。頑張って姿勢をよくしようとすると、背中や腰回りが疲れてくる。このことから、現在の私は姿勢を保つ筋力が全体的に衰えているのがわかる。
だから、お腹に力を入れることが出来ないのだろう。
ヨガや武道では、必ず「丹田に力をいれて」と指導される。
丹田に力を入れることが、基本の立ち姿勢に必要なのだ。
勅使河原さんが仰る「お腹」は「丹田」のことなのだろうと思う。
姿勢が良い身体つきは、基本中の基本。
どんな動作にもそれはついてまわる。
それは、生きていく上でとても重要な事なのだと思う。
姿勢の良さは、人間の生きる姿にも比例するような気がする。
勅使河原さんしかり、陸上選手の彼女達しかり、トレイルランニングの選手しかり、皆一様に爽やかだったのは、このためだったのかもしれない。
この姿勢について、もうひとつ気がついたことがある。
実は、楽器を演奏するのにもとても重要なポイントであるということだ。
綺麗に見せる演奏姿勢というのがあるのだが、それにはお腹の力が必要だ。椅子に浅く腰掛け、背筋を伸ばす。管楽器を演奏していると特によくわかるのだが、楽器を構える姿勢で呼吸の入り方が違ってくる。もちろん、それは演奏に直接影響してくる。
若い頃はこんな事を意識せずにできていたように思うが、ある一定の年齢になってこれを意識しないと出来なくなってきたことに気がついたのだ。
一番顕著にわかるのが、歩きながら演奏をするマーチングパレード。
上半身をぶらさず、姿勢を保って、隊列を乱さず足並みを揃えて歩きながら演奏をするのは簡単なことではない。
演奏技術以外に、暗譜力・持久力・筋力を要求される。
今年の夏、マーチングパレードに参加演奏をする機会があった。このマーチングパレードはライセンスをもった方の指導が入るということを聞いて、かねてから一度本格的にやってみたかったので、二つ返事で参加希望した。
その練習は、身体を鍛える体操教室並みだった。
ストレッチから入り、上半身をぶらさない歩き方、歩く歩幅、方向転換の仕方、姿勢、楽器の構え方など、諸々を楽器を持たずに練習をしただけで、膝と股関節に痛みを覚えたくらいだ。
決められた姿勢を保つだけで、それ相応の筋力がいる。しかも、吹きながら歩くのにはかなりの持久力もいる。これにくわえて、指揮者が出す指示を的確に察知して対処する能力も必要になってくる。いつどこで指示を出すかは指揮者に一任されているため、集中力がなければあっと言う間に隊列を乱してしまうのだ。
ある意味で、山登りと一緒かも・・・そんな感覚を覚えたのだった。
年齢を経て、いつまでも演奏を続けるには基礎体力が必要だということを実感。それは、どんな運動にも必要なことであり、健康に生きていく上で重要なことだと思う。それが、姿勢を保つことにつながっていると知った。
アスリート達の身体をみて、もっと鍛えていこうと思った。
良い見本を見せてもらえた事に感謝。
今回も登頂はしていないが、とても勉強になった登山だったと思っている。