あの日のことは、今でも鮮明に覚えています。
――東日本大震災。
当時の私は、仕事で田舎の田んぼ道を車で走っていました。いつものように時間に追われ、少し急ぎ気味にアクセルを踏み込んでいたと思います。周囲には広い田んぼと、ぽつんぽつんと立つ電柱。のどかな風景の中を“爆走”していました。
そのとき、ふと、何とも言えない違和感を覚えました。
風でもないのに、空気が揺れるような感覚。ハンドルに伝わる、かすかな振動。
「なんだろう?」
そう思い、とっさに車を止めました。外に目をやると、道路脇の標識がゆらゆらと大きく揺れているのが見えました。そこでようやく、地震だと気がついたのです。
エンジンを切り、しばらく様子を見ました。あの静かな田んぼ道で感じた揺れは、今思えば異様なほど長く続いていました。普段の地震とは明らかに違う、底知れない不安を感じたのを覚えています。
仕事中だった私は、まずは予定していた立ち寄り先へ向かいました。そこで状況を共有し、簡単な確認を済ませた後、急いで事務所へ戻りました。テレビをつけると、信じられない映像が次々と流れていました。
ただ事ではない。
そう実感した瞬間でした。
その後は、帰宅するためのルートを慎重に考えました。信号は動いているのか、道路は大丈夫か、渋滞はどうか。頭の中で地図を思い浮かべながら、できるだけ安全そうな道を選び、ゆっくりと車を走らせました。
あの日、私は田んぼ道で標識の揺れを見て、地震を知りました。
広い空の下で感じた、あの不気味な静けさ。
テレビの向こうで起きていた、想像を超える現実。
年月が経っても、あのときの感覚は消えません。
日常は、ある日突然、当たり前ではなくなる。
だからこそ、今日という一日を大切にしたい。
あの田んぼ道を思い出すたびに、
そう自分に言い聞かせています。