最古の棋譜を探して | eba-igoyaraのブログ

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世界最古の棋譜はいつの時代のものなのか、つい興味を持ったので調べた結果を論文風に記述します。

囲碁は「包囲ゲーム系統」に属する(注7)。古代中国に至ってルールが確立されていったが、紀元前には囲碁のことを「弈」(えき)と呼んでおり、囲碁のことを「棋」というようになったのは南宋(1127-1279)以降と思われる。

中国の南北朝(420-589)時代以前碁盤は17路で、南北朝以降に19路で遊ばれるようになり現在に至っている。
17路碁盤では、星は中央と4隅にある。対局前に黒石と白石を4隅の星に対角に置いて白から打ち始める。
(この事前置石制は近年まで続いた)
古代中国では黒(玄)は天の色と考えられ、黒衣は貴人が着用するものであり、白衣は無位無冠の平民の服であったことから、囲碁の黒は上手または貴人が持つことになっていた。
玄人(くろうと)や幽玄という語はこれから来ていると思われる。
これが逆転して白が上手になったのはいつの頃かは定かではないが比較的近年であり、事前置石制廃止とともに日本から中国に輸出されたものと思われる。

囲碁に関しての記載は先史時代から見られ、孔子、孟子なども囲碁について言及している。
棋譜を掲載した最古の文献は「忘憂清楽集」で、北宋の8代皇帝徽宗(在位1100-1125)の頃である。
この書に3つの棋譜が記載されているのでそれぞれを紹介する。
1、孫策詔呂範棊
[呉の孫権の兄孫策 175-200 と武将の呂範との対局 43手迄]
三国志の頃は17路盤であり、かつ棋譜を取るという習慣も無かったはずで、後世の作と思われる。
https://gokifu.net/t2.php?s=6861707475765773
2、金花椀図
[唐の宣宗の時代 846-859 棋待(棋士と認定された者)同士の対局 244手完、盤面黒1目勝ち]
この棋譜以前の棋譜も、棋譜についての言及も見当たらず、また後人の創作とする矛盾も無いので、香川忠夫(注1)は最古の棋譜としている。
https://gokifu.net/t2.php?s=8701707476184232
3、爛柯図
[290手完 盤面黒5目勝ち]

https://gokifu.net/t2.php?s=7991718160632911

爛は腐る、ただれるという意味、柯は斧の柄の呼び名。晋の時代(265-420)の神話伝説である。、
王質という樵が山中で4人の童子が碁を囲んでいるのを眺めているうちに時の経つのも忘れ、気が付くと持っていた斧の柄が腐り果てていた。驚いて村に帰ると知っている人は一人も居なかった。と言う。
この棋譜は、さすがに北宋時代 969-1127 の創作と思われる。

なお、日本での最古の棋譜とされるものがある(注3)。
【日本最古の棋譜】
日蓮上人対吉祥丸 181手完 持碁(引き分け)
建長5年(1253年)正月、鎌倉松葉谷草庵での対局
https://gokifu.net/t2.php?s=2661707477880782
4隅に黒白の石を置き、さらに天元に黒石を置いてから黒の先手で対局されている。
このとき日蓮上人31歳、吉祥丸(後の日朗上人)は11歳とのこと。
この棋譜の出典が定かではなく、確かな資料も無いため後世の創作ではないかと言われている。

以上、最古の棋譜について概要を紹介したが、古い時代の資料は散逸しているため推察の域を出ない。
今後、墳墓などから事実を裏付けるような資料が発掘されることを期待する。

参考文献
1)中国最古の棋譜[香川忠夫、大阪商業大学アミューズメント産業研究所紀要 第15号(2013)]
https://ouc.daishodai.ac.jp/files/ams_labo/publication/bulletin/%5BPDF%EF%BC%9A1.59MB%5D.pdf
2)古代囲碁の世界[渡部義通、三一書房(1977)]
3)爛柯堂棋話[林元美、東洋文庫(1978)]
4)囲碁の歴史[Wikipedia]他
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%B2%E7%A2%81%E3%81%AE%E6%AD%B4%E5%8F%B2
5)本の万華鏡-日本の囲碁[国立国会図書館]
https://www.ndl.go.jp/kaleido/entry/22/index.html
6)その他「遊戯史研究」(遊戯史学会 1989-2018)の諸論考、ネット上のブログなど
https://ameblo.jp/honjo207/entry-12621077405.html
7)盤上ゲームの系統と変遷[増川宏一の図]
https://www.h-eba.jp/heba/GAME/history1.html