GUILTY!! MAYBE!! 7

 

Warmth of this world.

 

ポスト

 

 

ブリタニアが目覚めてまだ間もない朝。朝霜降りるユーの森に、小鳥やワンダリングヒーラーが静かに配置される。PCが現れるまでのひと時、彼らは霜の降りた大地を踏みならし、温める。

 

しばらくして、グレンが黒熊亭の二階に現れた。

身体が硬い。グレンは手足の感覚を確かめるように、ゆっくりと身体を伸ばした。

 

昨日は……、昨日かどうかも定かではないが……。確かたくさんの懐かしい手紙を見て、それで……。

 

体の痛みはおそらくコネロス痛だろう。身体がほぐれるにつれて、記憶のモヤも次第に晴れていく。そうだ、ポストは……。

 

グレンは駆けた。

店の戸を開け、階段を降りる。階下にポストが見えた。慌てて階段を降りる音に驚いたのか、小鳥たちが遠巻きにグレンを眺めている。

 

グレンはポストの前に立った。

 

「……おはよう」

 

小さく声を掛けた。

しかし、ポストは朝の静かな空気の中、ただポストとして佇むばかり。

グレンは視線を落とす。ポストの足元が、一度掘り返されたようにめくれていた。

 

夢じゃなかったか……。

 

グレンはポストの取出口を開く。蝶番がキィキィと鳴いた。

生きているうちに直してやれば良かった。そう思いながら中を覗いた。

 

背後でゲートの開く音がする。

グレンは振り向かず、空っぽのポストに手をのせた。

 

「グレン殿……」

「グレン」

「首長殿、それに太陽寺もか……。記憶が曖昧だが、俺はコネロスしたんだな」

 

太陽寺はグレンに、裁判の顛末を簡単に伝えた。

 

「そうか、無罪か……」

 

グレンはそれだけ言うと、ポストから手を離す。手が冷たい。

 

「首長殿。召喚状を受け取った時、俺はあんたの心に触れていたんだな。これから争おうって感じじゃなかった。……初めから負けるつもりだったのか?」

 

グレンは振り向かないまま、ホーリーベルに尋ねる。

 

「グレン殿に絡みつくNPC疑惑の根深い病根を断つには、全力で争った後の無残判決以外にありませんでした。数々のご無礼、お許しください」

「まったくヒヤヒヤさせられたよ」

 

太陽寺が笑いかける。

 

「太陽寺殿が弁護人と聞いておりましたので……安心して全力を出せましたよ」

 

ホーリーベルも笑顔で返した。

 

「ポストを犠牲にしてか?」

 

グレンの背が強張る。

 

「グレン、それは違う。裁判がなくともポストの存在は城に知られていた。廃棄処分は時間の問題だったんだ。それに証言台に立つ事で、彼女は最後にお前と話すことが出来たんだ……」

 

グレンが背を向けたまま天を仰いだ。

 

「あの傷は……」

「……あれはポストさんが望んだことです。裁判に出廷するには自分が協力的で危険ではないと証明する必要がありました。それで、ライキュームに検体を送ったんです」

「ポスト……」

 

朝霜が陽に照らされて輝いている。

ポストについた水滴がキラキラと光の粒を残して、グレンの足元を濡らした。

 

「このポストは……?」

 

グレンは顔を下ろす。

 

「お前の良く知るポストだ。もう彼女はいないが……」

「そうか……」

「グレン」

 

太陽寺が一歩踏み出した。

 

「お前に無罪判決が出た後、松明の炎が溢れた手紙に燃え移って……コートオブトゥルースは焼け落ちた。なんとか手分けして、お前やポストをここまで運んだんだが……、その時にはもう、彼女はいなかったよ」

 

ホーリーベルが言葉を繋ぐ。

 

「その後、ライキュームの調査が入りましたが、不具合はもう除かれているとの事でした。でも……それは消滅したという事なのか、姿を変えて今もこの世界のどこかにいるという事なのか……、それは分かりません」

 

グレンが振り返り、ホーリーベルを見る。

 

「それは、まだどこかで生きてるって事か……?」

「それは……」

「言い方が悪いが、なにせ未知のバグだったんだ……。どうなったかは本当に分からない。ただ、デバックデートで消されなかった事は事実だよ」

「そうか……。二人とも、すまない。ありがとうな……」

 

グレンはそう言うと再び背を向けた。

 

「すまん……。ポストの蝶番が錆びててな。キィキィうるさいから、今から修理だ。今日は……帰ってくれるか」

「ああ、こっちもそのつもりだよ。これから二人で旅に出るんだ」

「なんだ、仲良いな」

 

グレンが少し、笑った。

 

「あれだよ。カルチャーショックの後遺症がちょっと……」

「ふふ、太陽寺殿はひどい事をしてくれました。しっかりお詫びしてくださいよ」

「はは……すまん……」

 

太陽寺はきまりが悪そうに頭を掻いた。

 

「どこに行くのか楽しみです。お土産はモアイでいいですか?」

 

グレンは笑って首を振った。

 

「いらねぇって。裁判のお礼はまた、みんなを集めてだな。じゃあ、気を付けろよ」

「おう、綺麗にしてやれよ」

 

グレンはゲートに消える二人の背を見送ると、深く息を吸い込み、朝の新鮮な空気で肺を満たした。

修理道具は上だったな……。

グレンは階段を上がる。店のドアに手を掛けた時、階下から聴き慣れた金属音が響いた。

グレンは振り返る。

 

ポストの前で、ワンダリングヒーラーが笑っていた。

 

 

おわり