夫は喫煙者でした。
でも、喫煙したから癌になった、というより
癌の矢がたまたま夫に当たってしまった、と思っています。
体に良いとか悪いとか、そんなの本当に一人一人違うはず。
非喫煙者だって癌になるんだから。
その時に本人が必要なら、それでいいんじゃないかなって思います。
告知を受けた時に主治医から説明があった通り、まずは胆管が塞がったことによって機能しなくなった胆嚢を取る手術を行いました。
胆嚢は無くなっても大丈夫な臓器と聞いていたので、摘出すること自体に心配はありませんでした。
一歩一歩、抗癌剤を投与できるように身体を整えていく必要があったので、これで次にステント挿入ができれば、次のステップに行けるんだ。
そう思っていました。
でも、この直後に腹水が溜まり始めました。
ステント挿入よりも癌の進行の方が早く現れてしまった症状。
ただでさえダルいと言っているのに、お腹の水が重たくて苦しくて、夫はトイレに行くのも困難になってしまいました。
予定していたステント挿入は後回しになり、腹水を抜く処置が先に必要になりました。
1日に4リットルくらい抜いたと記憶しています。
腹水を抜いたら体は軽くなるけど、抜いたあとはそれまで以上にダルいんだと嘆いていました。
初めに抜いた腹水には、胆汁も癌細胞も含まれていると主治医から説明がありました。
つまりもう、お腹の中に癌が散らばっていることを意味します。
膨れているところ全部に癌が触れているなんて。
そんなこと考えたくもない。
でも、奇跡が起こって癌がすっかり消えて欲しいとはまったく思えませんでした。
夫の辛そうな様子を見ていたら、そんな夢のような未来を描くよりも、とにかく何でもいいから今この瞬間が少しでも楽になってほしい。
そんなことばかり考えていました。
4〜5日経って、水が溜まるスピードがゆっくりになってきたので、隙を狙うようにしてステント挿入処置を行いました。
これでようやく抗癌剤を投与する準備が整ったわけですが、その頃にはもう、夫の体力は落ちきっていました。
あらゆる数値が悪すぎて抗癌剤に耐えられない状態で、数値が落ち着くまで待つしかありません。
2009年12月初めに自宅療養となりました。
病院でじっと落ち着くのを待つくらいなら、家で過ごした方がいいでしょう。
という主治医からの提案でした。
週に一度の外来で血液検査を行なって、数値が良くなっていれば抗癌剤を投与する、という方針説明を受けました。
週一回なんて、このまま何もしないでどれだけ病状が良くなるんだろうか。
癌の痛みも出ているのに、どんな生活が送れるんだろうか。
このタイミングで家に帰るということは、"そういうこと"なんだろうな。
家に帰れることを本人はとても喜んでいました。
それを私はサポートするのみです。
家族以外には詳しく病状の経過を報告していなかったので、夫の友人や知人は、経過が良くなっての退院と思ったようです。
自宅には大勢の人たちが退院祝いを持って来てくれました。
これには非常に複雑な気持ちでした。
ちゃんと説明するべきか。でも本人の前で何て説明すればよかったのか。
退院時に経口モルヒネを大量に処方してもらっていました。
見たこともないゼリーのモルヒネ。
1日数回うずくまって痛がって、ゼリーを食べるとスッと落ち着く。
効き目が凄すぎて、夫が震えながらモルヒネを飲みこんでいる姿を見るのはとても怖かったです。
心配も多かったけど、本人がやりたいと言うことは何でもやらせました。
車を運転したり、知り合いの家に顔を出したり。
食べたいものも全部食べました。
家に帰ってこれてよかった。
何でもない日常を送れてよかった。
病院にいれば安心だけど、家族水入らずの時間が無かったから。
あとでわかったことですが、夫は家に帰ってきたばかりのまだ動ける時に、身辺整理をしてたようです。
続く