先月、店舗のInstagramアカウントがフォロワー1万人を超えた。記念すべき数字のはずなのに、正直なところ、ちっとも実感がなかった。それはたぶん、「1万人」という数字の裏にいる人たちの顔が見えなくなっていたからだと思う。

 

 数字が見えなくなり始めた頃

 「フォロワーが増えた」で喜べなくなった理由

うちは地元のカフェをやっていて、Instagramは開店当初から続けている。毎日ドリンクとフードの写真を上げて、たまにスタッフの様子や厨房の裏側をシェアする。三年やって、フォロワーはゆっくりだが確実に増えてきた。1万人を超えた日はスタッフみんなで乾杯した。

 

でも翌日、現実に戻った。投稿のエンゲージメント率を見て、首を傾げた。1万人のフォロワーがいるのに、いいねは平均200件前後。コメントはもっと少ない。1万人のうち、実際にうちの投稿を見てくれているのは何人なんだろう。それを考え始めたら、急に不安になった。数字だけ見て「順調だ」と思っていた自分が、ちょっと恥ずかしかった。

 インサイトだけじゃ分からないこと

Instagramのインサイト機能はある程度教えてくれる。男女比、年齢層、都市。でもそれだけだと、具体的な「誰」が見えてこない。うちのフォロワーの何割が実際に店に来たことがある人なのか。何割が地元の人で、何割が別の地域からたどり着いた観光客なのか。何割が他の飲食店のアカウントなのか。そういうことが知りたかった。

 

特に知りたかったのは、「リピーターっぽい人」を見つけたかったこと。うちの店は週に二、三回来てくれる常連さんが支えてくれている。その人たちがInstagramでもフォローしてくれているなら、何か特別な企画を打つときに一番頼りになるはずだ。でも、アプリの中ではフォロワー一覧をスクロールするしかなくて、数千人の中から常連さんを探し出すなんて不可能に近かった。

 

データを取り出して初めて見えたもの

スプレッドシートにした瞬間、空気が変わった

別の店舗をやっている知人に相談したら、Instagram Follower Exporter を教えてくれた。「フォロワーリストをそのままスプレッドシートに書き出せるよ」と。最初は半信半疑だったけど、EasyCommentを試してみたら、数分で1万人分のデータが整然としたシートになって目の前にあった。ユーザー名、プロフィール文、フォロワー数、認証マークの有無。全部揃っていた。

 

シートを開いて最初にやったのは、プロフィール文に「カフェ」や「コーヒー」や「料理」が含まれている人を絞り込むことだった。出てきたのは約1,200人。つまり、1万人のうち1割強が、何らかの形で飲食関係のアカウントだった。競合他店のアカウントもいくつか混ざっていたけど、それはそれで参考になった。向こうもうちを見てくれているんだなと。

常連さんを見つける、という小さな発見

次にやったのは、フォロワー数が少なめで、プロフィール文にうちの店の地名や近隣の地名が入っている人を探すことだった。フォロワー数が50人未満で、地元っぽいアカウント。これでおそらく、個人アカウントで地元住民のフォロワーを絞り込めた。数百人が該当した。

 

その中を眺めていたら、見覚えのある名前がいくつかあった。「あ、この人先週も来てくれた」「このアカウント、たしかにいつもいいねくれてる」。画面の中で名前が顔と結びつく瞬間が、何度かあった。1万人という抽象的な数字が、少しずつ具体的な人の集まりに変わっていく感覚。それは、データを取り出してみなければ絶対に得られなかった感覚だった。

 

データを見てから変わった、店のやり方

常連さん向けの企画が打てるようになった

フォロワーリストを見直してから、店のやり方をいくつか変えた。一つは、常連さんっぽいアカウントに対して、もっと能動的にアクションを起こすようにしたこと。相手の投稿にコメントする、ストーリーズでうちの店のことを触れてくれたら必ずシェアする。そういう地道なやり取りを、データのおかげで「誰に」やるべきかが明確になった。

 

もう一つは、新メニューの告知のやり方を変えたこと。以前は全フォロワーに向けて一律に投稿していたけど、データを見てからは、地元の個人アカウントに向けて寄り添うような内容にシフトした。「近くに来たらぜひ」「ランチタイムにおすすめ」みたいな、地元の人に響く書き方。エンゲージメント率は、徐々にだが確実に上がってきている。

 

1万人という数字の本当の意味

今では「1万人」という数字の見え方が変わった。1万人全員がうちの店のファンなわけではない。その中には他店のアカウントもいるし、botっぽいアカウントもいるし、一度もエンゲージしていない沈黙のフォロワーもいる。でも、その中に確かに何百人かの常連さんがいて、何千人かの潜在的な顧客がいる。

 

その構造が見えたおかげで、数字に振り回されなくなった。「フォロワーが減った」で落ち込むことも、「増えた」で浮かれることも減った。大事なのは数字の大きさじゃなくて、その中に誰がいるか。それを教えてくれたのは、結局のところ、データを取り出して自分の目で確かめるという、ごく当たり前の作業だった。当たり前なんだけど、やらないと一生気づかないんだ、これ。