「鼠径(股間)ヘルニア(出っ張り)」、別名「脱腸」に悩まされてきた。

 

原因は色々有るようだが、筋肉が衰えてくると鼠径部の弱い裂け目から腸がはみ出してきて、こぶし大にもなる出っ張りが邪魔になるだけではなく周辺が痛む。

初期段階は横になったり手で押したりすれば戻る程度なのが、年齢的な要素も有ってだんだん筋肉の裂け目が大きくなってくるとなかなか戻らなくなり、戻るまで痛みと戦いで運動はおろか歩行もできなくなる。

最終的にははみ出した腸が壊死して、それを摘出できなければ死に至ることも有るらしい。

 

治療方法は手術で筋肉の裂け目に、網戸のようなメッシュを丸めたものを突っ込んで、それを留めるためにもう一枚広げたメッシュを周辺の組織に縫い付けて、物理的に腸が出ないようにする方法。

内蔵を切開するわけではないから、まあ簡単な部類の手術だ。

 

気になっていたので、7年ほど前に3週間ほど検査入院した際、検査の空き時間に手術をしてくれと頼んだのだが、神経難病の種類によっては麻酔から醒めないリスクが有るとのことで拒否された。

 

その後も気にはなっていたが、その頃は未だ我慢できる程度の痛みだったし、神経難病でいずれ歩けなくなるのだから、と放っておいた。

 

ところが、鼠径ヘルニアの進行が神経難病に追いつき追い越すと言う想定外の事態に。

痛くてリハビリが出来ないことも頻発するに至って、手術を決意。

 

神経難病や癌で見てもらっている大学病院で事前の検査を行い、3月後半に1泊の予定で手術することになった。

ところが、手術前日にその病院でコロナの院内感染が発生。

手術もさることながら、病室での感染を恐れて急遽キャンセル。

その後その病院では命に関わらない手術は当分行わない方針となり、早くても半年後と言われるに至る。

 

と言われても痛みは我慢できない。

神経内科のかかりつけ医と相談して近くの鼠径ヘルニア専門病院で手術を受けたら良いのでは、と言うことになり問い合わせるもやはり麻酔問題で総合病院ではないから何か有ったときに対応できないと断られた。

 

かかりつけ医はコロナ対策で忙殺されていたので、ネットで近くの総合病院で鼠径ヘルニアの手術をしてくれるところを探した。

行ってみたら、紹介状不要が売り文句の、孤島の診療所風情と言うか昭和感満点の病院だった。

入り口で検温・手のアルコール消毒こそあれど、それ以外の感染防止対策は無い様に見えた。

昭和の人情を感じさせる親切な看護師さんたちの距離感が異常に近い。此処にはソーシャルディスタンスの概念は無いようだ。

診察直後に有無を言わせず手術の予約。

試しにコロナの話題を出してみたら、「此処にはコロナ患者は搬入されてこないから大丈夫!」と自信満々。

そう言う問題ではないだろうと思いながら、こんな状況で直ぐに手術してもらえるのは此処だけだろうから、文字通り(選択肢は)「有り難い」。

 

手術当日、換気のためなのか隙間風なのか、やたら風通しが良い病室で手術着に着替えて(下半身露出状態で)待機。

4月中旬の冷気に震えたままストレッチャーで手術室へ。

廊下が狭い上に物が廊下に溢れ出しているので、ストレッチャーがアチコチにぶつかって、殆どアトラクション状態。

エレベーターは、飛び出している階数ボタンを押し込むと押したボタンが光るタイプなのだが、その電球が切れているようで押せたかどうかもわからないし、何階に向かっているのかもわからない。(3階建で地下もないし、病院のおおらかな雰囲気も相まって大きな問題は無いのだろう)

ドアの開閉は後付感一杯のトグルスイッチで行う。

 

手術室に到着したら、何と木製の開き戸で閂(かんぬき)の棒を外して開けてくれた。手術する医師は自分の手で開けて入るのか?

そんなことを聞く間もなく局所麻酔の注射が始まる。

(手術室入り口の木製ドア👇 閂は裏側)

 

 

手術開始。

鎮静剤を投与していないせいか、痛いのなんの。こんなに痛い手術とは、「聞いてないよ~!」。

全身麻酔を出来ない神経難病を恨む。

事前に「痛かったら言ってください」と言われたが、発語できないのを察知した昭和風情の看護師が「患者さん痛がって顔を歪めてます」と様子を伝えてくれて、麻酔を追加してくれているようなのだが痛みは緩和されないどころか、最初に打った麻酔も切れてきた様子。

悪夢のような2時間が過ぎた頃には精根尽き果てた。

付添の家内に「どうだった?」と聞かれて、唯一口にできたのは「痛かった」のみ。

でも手術後、医者に言われた「結構皮下脂肪が厚くて大変だった」との一言がもっと痛かった。

 

控えの病室に戻って、日帰りが可能かどうかの見極め。

と言うのは、医者には一晩入院して翌日の様子を見てから帰れと言われていたのだが、入院するとトイレにも一人では行けないなど種々不都合がある上に、こんなところでコロナに感染しては元も子もない、と言う思いから日帰りを断固主張し、医者も仕方がないから術後の様子を見て決めると言う線まで折れてきていたのだ。

 

ここでヘマをするとハードネゴの意味がなくなってしまう。

激痛に耐えながら、いかにも平然と立ち上がって見せて何とか関門をパスして帰路についた。

 

それからも痛みは10日間ほど続いたが、術中の痛みを思えば無問題。コロナ感染も無し。

1ヶ月半ほどたった今は、挿入したメッシュの異物感もかなり減ってきた。

鼠径部の反対側に再発の可能性が有ると言われたが、万が一そうなっても絶対に手術はしまいとの決意は揺るがない。

 

尚、病院の名誉のために追記すると、1ヶ月後に行った時にはエレベーターの操作パネルだけが最近のものに交換されていた。