今回の試乗を通して感じた将来の応用への希望と、克服しなければならないハードルを記しておこうと思います。

 

体に意思通りに動かせる部位がある限り、顎でも舌ででも、自分で機械操作ができるオプション類、多彩な座位の調整機能による身体問題解決の為の装備、座席リフトのような使用者の精神的苦痛を和らげるための装備など、F3ほど真摯に障害者の生活を考えて作られている電動車椅子を私は知りませんでした。

 

この延長線上で視線で操作出来たり、フルフラットな状態の車体を自動的にベッドに横付けして寝返りを打つような要領で移乗を可能にしたり、座ったままで用を足すことが出来るようになったり、恐らく今後もPermobilは障害者や介助者に寄り添って商品を進化させ続けて行くだろうことに、大きな期待を抱かせてくれました。

 

他にもF3の座面に敷いた防水シートの留め具を、入浴介助リフトのフックに引っかけて持ち上げれば湯船に入れるようになるとか。

あ、その前後の着替えも、濡れた防水シートを座面に戻すことの問題も考えなければならないでしょうから、その対策は専門家の知恵に頼りましょう。

 

でも、介助者の労力を最小限に抑えつつ、肉体的・精神的負担を和らげながら、障害者が減りゆく残存機能を最大限に使って、自らの意思で行動できる範囲を益々広げてくれる方向に進むであろうことに、希望を抱かせてくれました。

 

一方で、折角の技術の進歩を受け入れられない状況も有ります。

 

その一つが日本の住環境です。

住居の狭さから来る屋内移動の困難さもさることながら、靴を脱ぐ文化が大きな障壁になると思われます。

日本の住宅環境からすると屋内用と屋外用を使い分けるのが一般的ですが、F3は何時でも何処でも長時間同じ環境で使い続けられることが売りで、移乗回数を減らすことで快適に過ごせます。

 

内外を区別する文化そのものもそうですが、そこから派生する建築様式が物理的な障壁となります。

 

その典型例が上がり框を如何に乗り越えるかです。最近のマンションでこそ玄関からほぼフラットに室内に入れますが、一戸建てや古い団地ではF3の段差走破能力を持ってしても無理です。

床の素材にしても、この重量の電動車椅子が縦横無尽に走り回ることが想定されているかどうか。

室内も土足の欧米とは違って汚れも気になるでしょう。

畳はボロボロになるでしょう。

更に、(これは日本だけに限りませんが)道路面から玄関面までの高低差の克服問題も有ります。

F3を2台購入して使い分ける資金力と保管スペースがある人はそうそう居ません。

 

そしてもう一つは導入のハードルの高さです。

そこそこの乗用車並みの値段なので(スペックによって倍半分ぐらいの開きはある)、簡単に現金で買えるものではありません。

 

現時点では介護保険のレンタルの対象は、一部の車種が東京都でのみとなっており、仮にF3が対象になったとしても自己負担は月額1万円程度にはなるでしょう。

 

となると、障害者総合支援法の補装具費支給制度の補助金を当てにする事になりますが、各機能ごとの判定はかなり厳しく、仮に適合の判定が出たとしてもそれぞれの機能ごとに定められた基準値を超える金額は自己負担となります。

F3は各機能の値段が基準値を大幅に超え、その差額の絶対値も合計では数十万円から百万円を超えるケースも出てきます。

 

また、市町村の財政状況にかなり影響を受けるので、地域間格差も存在するようです。

(自己負担が少なく済むケースも無いことは無い様ですが、その門はかなり狭いようです)

 

これでは誰もが手に入れられる状況とは言えません。

 

メーカーには低価格化をお願いしたいですし(WHILLは殆ど同じ性能の新型が半値以下になりました)、市町村には予算の確保と公平性の確保、そして利用者には不要な補助金の利用を極力抑える、と言うことをお願いするしか無さそうです。