小説・道化のクレヨン 第3章 | どーも、インターネット初心者です。

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道化のクレヨン



第3章「喜劇のサービス」
客観的日常

「んでどーなったの?」


武藤は後輩の笹崎に故意の行方を尋ねた。


唐突な話の切り出し方をした武藤に対して何か言うであろう笹崎。


普通に考えると、どーなったの?の返答。


何がですかと言われそうな予感がした1秒後、


やはり「何がですか?」と言われてしまった。



第3章「喜劇のサービス」



笹崎と歩く約9時間前、私はいつも通りだった。


さわやかとは縁遠い朝。


大きな建物が視界にあり、自動ドアが開く。


入って目の前には受付があり、右手にはエレベーターがある。


私は眠いと心の中で呟きながら重い足取りで歩き出した。


客観的に見たらどんな感じなんだろう。


うーん。考えてみようかな・・・


前方に見知った顔。


深見という男はエレベーターを待っているようだ。


私は客観的になった。


今日も同僚の武藤は会社へ向かう。


いつものように目を擦りながら出勤する俺の20メートル前で、武藤は今日もさわやかだった。


大きな建物が武藤の視界にあり、自動ドアが開いていく。


颯爽とエレベーターへ向かって歩く姿は凛としていて格好良かった。


そんな同僚に反して、俺は眠いと心の中で呟きながら重い足取りで歩き出した。


少し美化してしまったがそんな感じだろう。


っていうか客観的の彼も眠いのね。結局の所、みんな眠いはずなんだ。


私も颯爽とエレベーターへ向かって歩く、凛とした格好良い武藤ではない。


眠い目を擦る重い足取りの武藤である。


「おはようございます武藤さん。」いつの間にか笹崎。


くだらない考えがエスパーにはわかるらしく、笹崎は挨拶の後に「考え事ですか?」と尋ねてきた。


恐らく意識が止まっていたからだ。


笹崎に一瞬気がつかなかった私を見て超能力が働いたようだ。


「まあね。」


笹崎は私を無視して足早にエレベーターに乗った。


何なんだコンチキショーとは言わない。思わない。考えたくもない。


こっちだって無視してやる。


しかし無視しようものなら傍から見たら完全に仕返しだ。


もっと寛大にそんな小さなことはやめよう。


お昼、笹崎は変なジュースを飲んでいる。私は食堂で同僚の友人と蕎麦を食べた。


お腹がいっぱいになって午後が訪れた。


笹崎はどうか知らないが私は眠くなる。


一人が眠そうな顔をするとそれが伝染する。


隣の江藤佐希子があくびをした。


彼女はきっとこう思っているだろう、


「眠い。」と・・・


もしかしたら夜更かししたのかもしれない。


「全く眠い、昨日夜更かししちゃったもんなぁー」


と思っているだろう。


左斜め上を見ると時計が14時40分を指していた。


あと2時間もある。今日は時間が経つのが遅い。


ふと外を見ると薄暗かった。


しばらくして激しい音が続いた。大粒の雨の音だ。


うとうとしていた何人か目は一気に覚めただろう。


「傘持ってきてないよ。」


みんなそう思う。天気予報が見事に外れてくれたおかげで帰りは悲惨だ。


ただ一人笹崎は余裕な顔をしている。まるで折り畳み傘があるもんねーと言わんばかり。


気がつくと40分、50分と時間は経っていてお腹の減り具合が時間を教えてくれた。


私はタイムカードを押すと雨宿りをしている同僚を抜けて足早に会社を出た。


しばらく走ってコンビニで傘を買った。180円で雨を防げるわけだ。


透明な傘を差して私はコンビニを出た。


今日は本屋に寄るのやめようかな。


少し濡れた髪がそう思わせた。


本屋を通り過ぎようとした所で雨に濡れた笹崎を見つけた。


「あれ笹崎くん、傘は?」


折り畳み傘はどうした・・・


「あ。武藤さん・・・」


拾い上げられた子犬のような顔でこっちを向くな。


少しキュンときた私は傘を指差した。


傘を見て首をかしげ、不思議そうな顔をした。


そうか私の妄想か。しまったこっちの話だ。


しゃがみこんだ笹崎が一方的に話し始めた。


「ここの本屋、今日と明日休みらしいんですよ。」


よく見ると貼り紙もある。


はぁ。


私は傘を向けるとこう言った。


「仕方ないなー」


笹崎はうれしそうに傘を奪った。


いや違う。私も使うんだって。



(次回掲載予定は6/15です)