道化のクレヨン
「こんにちわ」
私は初めて声を掛けた。
第2章「道化のクレヨン」
陽気なアジア系女性
通り過ぎていく人たち。
彼は軽くお辞儀をした。
「ギターお上手ですね。」
私はとっさに何も考えず言ってしまった。
あ、しまった。適当なことを言ってしまった。
すると彼は少し考えてこう答えた。
「日本語お上手ですね。」
え?
「わ、私は日本人ですから・・・」
生まれも育ちも日本。
「あ、すみません。てっきりアジア系の方かと思ったので」
中国とか韓国美人ってことなら悪くないな・・・
私は少し笑ってしまった。
「そういえば僕に何か用ですか?」
・・・あっ。
「あと何曲かしたら終わりますんで待ってて下さい。」
そう言うと彼は置いていたギターを手に取った。
どうしよう、特に用なんて無かったのに・・・
そう思っていたのは最初だけだった。
いつの間にかそんな不安なんて忘れてしまうくらい彼の音楽に聴き入っていた。
私のよく知っている私が愛する音楽。
そして他の全く知らない音楽。
気がつくと人が少し集まっていた。
辺りはすっかり真っ暗。
長い音楽が終わった。
私は再び声を掛けた。
「お疲れ様。」
私がそう言うと彼はギターを片付けの手を止めて驚いた。
「す、すすみません!忘れてました!」
そう言われて私も初めて何でここにいるのか思い出した。
「つい音楽に夢中になってしまって・・・」
あ、それ私も同じです。
やばい、彼以上に私が慌てる。
何か用があって声をかけたんだと思われているんだった・・・
少し寒い公園で二人して慌てる。
そんな中、彼が笑った。
「陽気ですね、陽気なアジア系女性ですね。」
穏やかな雰囲気になったので私は・・・
「ファンになってしまいました。」
正直に言ってしまった。
正確にはあの音楽が気になったんだけど。
沈黙。少し不安になってしまった。
その時。
「あ、えーっと笹崎ですよろしく。」
彼は自己紹介をした。
「えっわわ、わわ私は 溝口れい ですよろしく。」
もう少ししたら色んなことを話してしまう予感がした。
(次回掲載予定は5/1です)