道化のクレヨン
第1章「緩巻のセレクト」
ボルト
「えーっと、えーっと」
炎天下の中、紀伊はにやけながら何度も呟いていた。
最初は口には出してなかったが、次第に小さな声で連呼していた。
にやけると思考が鈍る。
汗でシャツが少し湿っていた。
13時47分。
弘子からの突然の誘いにかなり舞い上がっていた。
そしてしっかりとボルトを回して考えを整理した。
その5秒後。
目の前の色鮮やかな台から即座に離れることを決めた。
尻と一体化してると思ったが椅子からは容易に離れることが出来た。
にやけた顔が我ながら不気味だ。それでも嬉しくてにやけてしまう。
涼しい店内から出ると、今までわからなかったがシャツが少し湿っていた。
だからか、風が少し冷たい。
俺は外の自動販売機で炭酸のジュースを買った。まだ、新商品は出ないのか。
もっと色鮮やかなほうがいいと思うのだが、控えめなパッケージが人気のようだ。
俺と弘子は付き合ってもう3年になる。
だが最近、弘子の様子がおかしいような気がしていた。
なかなか会ってくれないし、時々すごく怒る。
ひょっとして何か嫌われるようなことでもしたのだろうか。
思っても言えなかった。本当に嫌われていて別れることになったら・・・
もしそうなら多少我慢しないと怖い。
だって、そうだろ・・・
別れる以上に怖いことなんてないんだから。
ジリジリ・・・
流石に昼は熱い。
市内の最高気温は32度らしい。9月のくせに。
確か昨日も同じことを言った。
控えめなパッケージの炭酸もすぐに無くなり、また一気に汗が出る。
俺はゴミ箱の近くに空き缶を無造作に投げ捨てた。
さてどうしようか。と手で扇ぎながらコンビニへ向かった。
特に用は無いが自然に足が進む。まあ熱いからだ。
「あ、そうだ!」
上がりきったテンションが普段使わない頭を目覚めさせた。
俺って頭良い~と今度は自分の意地の悪さでにやけてしまう。
普段の顔を忘れるくらいに。
そしてにやにやしながら携帯を取り出していた。
確か隣町だったから電車で5分だな・・・
汗で画面が汚れる。シャツが貼りつく。
「もしもし、笹崎。今から駅集合な。」
本を返すついでに自慢してやるんだ。
(次回掲載予定は3/15です)