週末のたびに雨が降り、そして一雨ごとに秋らしさを増しているこちら知多半島。
今朝も伊勢湾から吹く風も対岸の鈴鹿山脈の冷たい空気が吹き降ろされ、ひんやりと頬に冷たさを実感できる一週間の始まりとなりました。

さて、先週末のこと。
僕の携帯に一本の着信が。
「土曜日に携帯とはいったい誰かな?」と見てみると、とても珍しい方からのコールでありました。


ひと月のうち何度か、仕事の用件で名古屋市内に出向く僕。
いわゆる営業ではなく技術系の用件ですので、僕がお伺いする先は固定されたところになります。
出向く先が決まっておりますので、おのずと車を停める駐車場も毎回同じところになりました。
この駐車場を利用するようになって、かれこれ7~8年くらいになると思います。

さて、出先での仕事を終え、駐車場まで戻りますが、そこで、オフィスに帰る前にほっと一息つくのがいつの間にかの習慣となりました。
そのひと息つく場所は、パーキングビルに隣接した一軒の喫茶店。
「駐車場の隣」ということで「都合の良さ」から何気なく入ったそのお店でしたが、まず最初に目に入ったのは、カウンターに置かれた、高さ1mくらいはあろうかという大きな花瓶に飾られた立派な生け花のある光景でした。
その見事さに生け花が最も良く眺められる席に腰を落ち着けた僕でありました。
コーヒーをお願いすると、カウンターの中で、お店の方が豆を挽き始めました。
運ばれてきたコーヒーは、挽き立てならではの薫り高い湯気がカップから僕の鼻をくすぐりました。

次に入ったときも、そのまた次も。
そこには、季節折々の生け花が飾られ、オーダーの度に一杯づつ目の前で挽かれた豆で点てられたくコーヒーが変わらず供されるのでありました。

素晴らしい生け花といつも挽き立ての薫り高いコーヒー。
そこは、本当に贅沢な時間が流れる「至福の癒し空間」でありました。

いつしか、生け花を一番よく愛でらるテーブルが、僕の定位置となりました。
決まった席で過ごすひと時の至福の時間が僕の「密かな楽しみ」となったのであります。



そんな時間を過ごすようになってかれこれ3・4年ほどたったころでしょうか、お店のオーナーから「いつもありがとうございます」と声を掛けていただきました。


時々ふらりやってきて

同じような時刻に(出先の用件はだいたいスケジュールが決まっているルーチンワーク的なものですので)
同じ席で(生け花がゆっくり眺められる僕だけの特等席)
同じブレンドを(一度気に入ったらずっと変えない頑固なところがあるんです)

静かに黙って一杯飲んで帰る


お店の皆さんがいつしか僕の顔を憶えてくださり、「あの人どんな方なんだろう?」と噂してくれるようになったのだそうです。
そんな話しを聞いたオーナーが、「そんなに気に入ってくださる方なら一度ちゃんとご挨拶しなきゃね」と相成ったんだそうです。
それからは、お店に伺うたびにオーナーとご挨拶を交わすようになり、更にはオーナーとお話しをする間柄となり、メアドと携帯番号を交換し。。。。今では、すっかりお友達となった僕たちなのでありました。


前置きが長くなりましたが、土曜日のコールとは、そのオーナーからのものでした。

「あらま、これまた珍しいことで、ひょっとして常滑にお店で使う器でも探しに出てこられましたか?」と僕。

「いえ、そうじゃないんです。実は。。。。」

いつになく重い雰囲気を漂わせた声が告げたのは、ショッキングなひと言でした。

「実は、11月一杯でお店を閉めることにしました。〇〇(バイアリーの本名)には、本当に長い間可愛がっていただいて。。。。。〇〇さんだけには、私から直接お伝えしなければとお電話させてもらいました」



携帯を握りしめながら暫し呆然。

「青天の霹靂」とはまさにこの事を言うのでしょう。
まさか、あの場所がなくなるなんて、夢にも思っておりませんでした。
あまりのショックに絶句したままの僕でありました。


「もしもし」

携帯の向こうから聞こえる声にようやく我に帰った僕。
「なんと、残念なっ!これから、名古屋に出るのに何を楽しみしたらいいんですか」と応えるのが精一杯でありました。

きっと大きなご決断だったことでしょう。
一介の客である僕には、立ち入ったことを聞くことは僭越この上ないと思います。
こうしてわざわざ直接お知らせいただけたことを友人としてありがたく受け止めたいと思います。


今週中に最後の一杯を頂きにお店にうかがいたいと思います。
そして、エプ子さんをお供に連れて行こうと思います。
かれこれ8年近くにおよぶ思い出の場所を「写す心」に感謝を込めてファインダーから沢山遺してきたいと思います。


人生、別れがつきもの

といいますが、やはり残念でなりません。

せめて、最後の一杯は「笑顔で」と思っていますが、ちょっと自信がありません。



深まる秋、僕の元に届いたのは、メランコリックなニュースでありました。