少し間が開いてしまいましたが、京都散策記の続編であります。
銭湯の大きな湯船でゆったりとひと風呂浴びて、夕暮れせまる街中に出ます。
京都の繁華街の中心地、祇園を流れる白川沿いに歩きます。
エプ子さんを取り出すものの、周囲には多くの観光客が散策を楽しんでおられ、それがどうもしっくりと来ない僕は、写す心が今ひとつかき立てられません。
もっともこちらも観光客の1人ですから、生意気なことを言っている場合ではありません。
そうこうしてたどり着いたのは、「巽橋」。
そう、この場所で長い間、素晴らしい情景を撮り続けておられるのが、yuki様
。
とてもアウェーの身で簡単に名場面をものに出来るはずも無く、早々に辰巳大明神(辰巳稲荷)のお社に参拝だけ済ませて歩き出した僕でありました。
さて、この祇園に足を踏み入れたのは、京都ならではの風情を味わいたいがゆえであることは間違いありません。
花街である祇園には、食文化においても数々の名店が軒を連ねています。
老舗の名店は今でも「一見さんお断り」が脈々と受け継がれており、余所者をおいそれと受け入れてくれる場所ではありません。が、時代が移り、この祇園においても祇園ならではの新たな京都の食文化が生まれています。
その新しい文化の一つが「町家バー」。
京都の「町家」を改造してバーとしてリニューアルし人々を迎え入れてくれます。
こうした町家バーは、「隠れ家」として京都の人々に愛されて独自の文化を形成しています。
中には伝統を重んじ「一見さんお断り」を貫くお店もありますが、多くは敷居の低い店となっているのです。
今回、そんな町家バーの一軒を訪ねたかった僕であります。
そのお店、噂に名高い「解りにくいロケーションの一軒」
そこを訪れた誰もが異口同音に口にするのが「見つけるのに苦労しました」というひと言。
でも、苦労して探し求め、そして見つけたからこその喜びもひとしおと、あえて誰もがチャレンジします。
僕も自ら探索に出たのでありました。
いやはや、しかし、これが本当に見つからない。聞きしに勝る解り難さです。
「この街区に間違いないはず」と絞り込むものの、どうにもたどり着けません。
一時間以上捜し歩いて、未だ見つかりません。周囲1kmにも満たない小さな街区でこれほど苦労させられるとは。
夕暮れとはいえ、額に汗が滲んできました。町家バーでの一杯を楽しみに銭湯で「風呂上りの一杯」を我慢した僕の喉は、もはや限界を超えてしまいました。
ふと見ると、ちょうど目の前に居酒屋のカウンターがありました。
狭いカウンターに、ビニール貼りの丸いすが並んだ、絵に描いたような下町の居酒屋です。
ちょっと歩き疲れた僕は、辛抱堪らず、椅子に腰掛け、「生ビール!」と目の前のお姉さんに声を掛けていました。
一気にジョッキを飲み干し、喉を潤します。
気分は砂漠で遭難してたどり着いたオアシスです。
「何にしましょうか」
一杯のビールに放心状態だった僕がお姉さんの声に我に帰ります。
今回、茂庵さんといい、ビールでトリップしてばかりの僕であります。
さて、あくまでもオアシスでの小休止。
長居をするつもりはありません。
さっと一杯引っ掛けて、腰を上げることにしましょう。
とはいえ、さすがにビールだけというのは気がひけます。
「品書き」をみると旬の食材が書かれています。
値段は、大体300円~400円。
大衆居酒屋のそれであります。
「とり貝のお造り」の文字を見つけ、それをオーダー、加えて鱸の塩焼きを追加です。
待つこと数分。目の前にとり貝が出されました。
うん? 色艶と肉厚が違う!
箸でつまんで口に運びます。
ひとくち噛むと貝の甘さが一気に口の中に広がります。
思わず目をむいて唸り声を上げた僕でありました。
「コレは旨い!!」
我が癒し家さんでもこれほどの上物はめったに口にすることは難しい。
いやはや驚きました。
続けて、鱸の塩焼きも供されました。
これまた、程よく脂が乗った上物。
しかも絶妙な焼き加減です。
「これが祇園の底ぢからなのか!」
あまりの衝撃に我を忘れ、夢中で「お酒を冷やで!!」とお姉さんに叫んでいる僕がいました。
「お酒はどれにいたしましょう」
お姉さんがリストを広げてくれます。
そこで知った更なる事実に、これまでの衝撃の理由を悟った僕でありました。
「じつは。。。。」お姉さんの口から新たな事実が告げられます。
「わたしども、本業は滋賀で造り酒屋を営んでおりまして。。。銘柄を金亀と申します」
そりゃ美味しいわけだわ。
造り酒屋が営む居酒屋でヘタレな食材を供するわけが無い。
「食材は、毎朝あそこに立つ板長が直接市場で目利きして仕入れております」
語られた説明に全てを納得の僕でありました。
こりゃ、オアシスどころか、砂漠のど真ん中でとんでもない大油田を掘り当ててしまいました。
コレも何かのお導きでしょう。そのご縁を大切にしたいと思います。
そうとなれば、じっくり腰を落ち着けて、京都の旬を味わいましょう。
町家バーは次の機会ということで。
改めて料理をオーダーします。
京都の夏に欠かせない、はしりの鱧を「落とし」で。
これまた、関西の夏野菜の定番、水ナスを「浅漬け」で。
もちろん、ここからは金亀さんとの一本勝負ということで
時間がたつほどにお店の中は超満員。
大衆居酒屋ならではの少しづつ椅子を詰めながらの譲り合いであります。
しっかり堪能し「そろそろ腰を上げねば」と思っていた僕の隣に紳士が1人腰を下ろしました。
「あ、おこしやす」
「〇〇ちゃん、こんばんわ」
どうやら常連さんのようです。
お姉さんが着てくれたタイミングで先にお勘定をすませて、残りの酒を味わいます。
「いいお店でしょう?」
「僕、この近所に住んでる△△いいますねんけど、毎日散歩の帰りにここへ寄るんですわ」
お隣の紳士が話しかけてくれました。
「名古屋から来たバイアリーと申します。いやあ、衝撃でした。これも祇園のひとつの顔なのですねぇ。次回から京都に来る時は定番にさせていただきます」
△△さんから「ここの素晴らしさは、祇園の中でも別格ですわ。偶然に見つけるなんて、バイアリーさん、運がよろしいお人や。」
「ところで、にごり酒は飲まはりました?えっ?飲んでへんの?そらあかんわ!〇〇ちゃん、にごり酒ふたつね!!これ僕からのおごりです。」
なんと△△さんにご馳走になってしまいました。
「〇〇ちゃん、気に入ってもらえてよかったねぇ。」
にごり酒を運んでくれたお姉さんに△△さんが、声を掛けます。
「こちらのお客様、本当に美味しそうに味わってくださって、そのお顔がほんま幸せそうな笑顔で。。。。失礼ながら店のもんが皆んなでずっとお客様のお顔を嬉しく拝見しておりました。ほんま、今後ともよろしゅうおたの申します。」
お姉さんのひと言に奥の板長さんからも
「ほんま、ありがとうございます。次のお越しを楽しみにお待ちいたしておりますので」と声を掛けていただきました。
皆さんの声に送られ、ごちそうになったにごり酒のほんのりとした酸味の余韻を楽しみながら通りに出た僕でありました。
一晩明けて、久々に京都で朝を迎えます。
今日も楽しい出会いと美味しいものが待っています。
充実の1日を楽しむことにいたしましょう。
「年男は、モフモフデート」編に続く
**** 付 記 ****
このお店の詳細は以下の通りです。
遊亀 祇園店
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