先ほど速報でこのニュースが届きました。



高校生の頃、この方の本に初めて出会った時の情景を何故だか不思議と今も鮮明に憶えています。


本屋さんの棚に置かれたコバルト・ブル-の装丁があまりに美しく綺麗だったので、つい手に取ったのが始まりでした。
美しい表紙がとても似合う「あぶくだま遊戯」という情緒豊かなタイトルの一冊。

文芸書に違いないと開いたページに書かれていたのは、社会へのとても厳しい批評が満ち溢れていました。
しかし、その筆致の厳しさの中からは、この方の社会を見つめる真摯な眼差しとまっすぐに一本の筋の通った社会と向き合うその姿勢。

この方の持つ「正義感」が高校生の僕にも強く伝わってきたのでした。

以来、「あぶくだま遊戯」から広がって「紙つぶて」と名付けられた一連の本たちは僕の大切な「心の糧」となったのです。
その知識の深さ、洞察力の鋭さ、そして論理の明快さに僕は沢山のことを教えられてきました。
20年以上経った今でも時々本棚から取り出してはページを開きます。

その文章は今日でも決して色褪せてはいないどころか、今こそ読み返さなければいけない「大切なこと」がそこかしこにちりばめられているのを思い知らされるばかりなのであります。


「「碩学」とは、この方のために有る言葉ではないか」


ずっと、そんなことを感じて今日まで来ました。


やがて大阪に住み始めた僕は、毎週日曜日の夜にテレビ画面の向こうにいるこの方の笑顔と出会うことになりました。
「ああ、この人があの「あぶくだま」と「紙つぶて」の。。。」
その笑顔は文章そのままに「頑固親父」を彷彿させるものでした。
落語家・桂文珍師匠が柔らかな大阪弁で呼びかける「たにざわせんせっ」に応える笑顔に多くの関西人が日曜日の夜を穏やかな気持ちで過ごせたことでしょう。


***** yahooニュースより抜粋・転載  ******


 保守派の論客で、近代文学研究者として知られた関西大学名誉教授、谷沢永一(たにざわ・えいいち)さんが8日、心不全のため兵庫県伊丹市の病院で亡くなった。81歳。


1929年、大阪市生まれ。関西大学在学中の50年に同人雑誌「えんぴつ」を創刊、開高健や向井敏らが参加し親交を深めた。57年、関西大学大学院博士課程修了。同大学に55年から勤務し、91年に教授を退いた。

 専門は書物の出版経緯を探り文献目録などを作成する書誌学。深い教養に支えられた近現代の文学・評論などを研究した。62年に広津和郎や佐藤春夫を論じた「大正期の文芸評論」を刊行。書物をめぐるコラムを集めた「完本紙つぶて」で80年にサントリー学芸賞、「文豪たちの大喧嘩」で04年に読売文学賞、「紙つぶて 自作自注最終版」で06年に毎日書評賞を受賞した。



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混迷を極める今の時代こそ、「大人を叱ってくる大人」が求められているのを痛感します。

そんな「叱れる大人」がまた一人天に旅立ってしまわれたことを心から惜しみます。



故人の遺された大きな業績に心から敬意を表し、安らかなご冥福をお祈りいたします。