う~ん!やられたっ!


読み進めながら、思わず口走ってしまった感想でした。

そして、あらためて再認識させられたのは、僕が「本好き」である以上に



「本屋さん」が好き



であるということ。



レストラン、ブティック、はたまたホームセンターなど、どんな「お店」にもそこにはお店とお客さんを繋ぐ「こころ」があると思います。

それは、本屋さんも同じ事。

そして、その「こころ」を表すお店ならではの「表情」があります。

いつもお世話になる行きつけのお店にも、足を踏み入れるたびに新しい「表情」に出会えます。

また、旅先でふと立ち寄った本屋さんにもその店が見せてくれる「こころ」と「表情」に出会えます。



田舎の小さな本屋さん。


ビジネス街に在るメガ書店。


デパートやスーパーに入っているテナント書店。


はたまた


郊外のチェーン店。



僕が少し時間があるとついフラフラと本屋さんに吸い寄せられるのは、何よりもその「こころ」と「表情」に出会える事が楽しくて嬉しいからなのであります。



世の中、いろいろなマニアや愛好家そしてフェチがいらっしゃいます。

元来僕は、あまり物事にどっぷりのめり込んだり執着したりする性分ではありませんので、こういったマニアやフェチの気持ちは理解できないつもりでした。が、この本を読みながら「ひょっとしたら僕は本屋フェチだったのかもしれない」と思い始めています。

これまで気付かなかった自分を気付かせてくれた、というか、世の中、僕のような「人種」が実は沢山いるのだということをあらためて知ったのであります。




お話しの主人公は、短大時代から本屋さんでバイトをし、そのまま就職先もこれまた本屋という書店スタッフ歴6年、僕から見ればまさしくこの方こそ「本屋さんフェチ」の杏子さん。と、その書店のアルバイトで、現役女子大生の多絵さん。

彼女達が勤めるのは駅ビルの6階ある本屋さん「成風堂」。

この成風堂を舞台にこれまで幾つもの事件を解決してきた名コンビの2人です。



ある日、杏子さんの下に一通の手紙が届きます。

送り主は、元成風堂の同僚で、今は地元信州の老舗書店「まるう堂」に勤める美保さん。

彼女によれば、まるう堂に幽霊が出没し、その幽霊騒動のおかげでお店が閉店するかもしれないという大変な危機なのだという。

しかも、その幽霊騒動には27年目の殺人事件が深く関わっているらしい。

そこで、これまで本屋さんにまつわる数々の事件を解決してきた多絵さんを連れて、信州まで事件を解決しに来て欲しいという依頼だったのです。



出向くのを渋る杏子さんに向けてやる気満々の多絵さんは、こう言います。



********************


(前略)


行けば、地方書店の見学も出来ますよ。


(中略)

床の色、棚の配置、レジの仕様、壁の使い方、気になりますよね。(中略)こだわりがきっとあるでしょうし、(中略)お客さんに愛される本屋さんって、杏子さんの永遠のテーマでしたよね。


(中略)


いたずらっぽく笑う多絵は誘惑者そのもので、彼女の手には、老舗書店見学というツボを心得た甘い言葉がしっかり握られていた。


****** (本書27・28頁より抜粋引用) ******



そうなのです。


本屋さん好きとって、「書店見学」というひと言は、これほどの甘い誘惑はないのであります。



こよなく「本屋さんを愛する」杏子さんの耳に多絵さんの殺し文句が囁かれます。



****************


杏子さん、前に『本屋の謎は本屋が解かなきゃ』って私が言ったら、すっごく喜んでくれたじゃないですか。今回だって本屋に現れる幽霊の正体を、本屋でなくて誰が暴くんですか。


****** 本書27頁より抜粋引用 *******




かくして次の週、信州のとある駅。

そのホームに降り立つ杏子さんと多絵さんの姿がありました。



そこで待ち受ける幽霊の正体とは?


幽霊と27年前に起きた事件との関係は?


そして、そもそも何故、老舗書店に幽霊は現れたのか?




彼女たちの謎解きが始まります。




本屋さんを舞台にしたミステリー。


これまで「あったらいいな」と思っていました。

でも、きっとディティールとして難しいだろうなとも思っていましたし、そのジャンルは誰も手を付ける人がいないだろうなとも思っていました。。

しかし、ついにそのジャンルを確立されました。

その嬉しさと、スト-リーの面白さに、冒頭の「う~~ん、やられた!」との思いとになったのであります。難しい課題を見事にクリアしたこの本は、本当に「あっぱれな一冊」だと思う僕であります。



本書の帯によれば、これは、「成風堂シリ-ズ第2弾」。つまりは、第一弾があり、さらに第3弾もすでに刊行済みとのこと。

早速、「第一弾」を手に入れました。

その帯には堂々と「本邦初の本格書店ミステリ」の文字が記されていました。

やはり、画期的な一冊との出会いだったのです。



ただ今、杏子&多絵の探偵コンビの活躍に夢中の僕であります。



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