「春の数えかた 」、「人間はどこまで動物か 」に続く、雑誌「波 」に連載中のエッセイ「猫の目草」の3巻目。
著者は、前巻の各文が綴られた頃のお仕事である滋賀県立大学の学長職の任期を無事に満了なさいます。
6年間にわたって、その設立から運営の安定までの大役を見事に全うなさった著者を周囲が放っておくはずもなく、続けて、これまた新しく創設される事となった「総合地球環境学研究所(地球研)」の初代所長の職に任ぜられる事となります。
その初代所長時代に綴られたのがこの巻。
前巻・前々巻と変わることなく、著者のご専門の動物生態についてのお話を縦糸に、著者の身の周りに起きる出来事やその季節折々に風情、そして著者の青春時代や若き研究者時代の思い出やエピソードを横糸にして織り成される「一幅の織物のような」名エッセイ。
その手触り(読み心地)は、柔らかくて、しなやかで、そして何より暖かい。
僕が、田舎暮らしの日々の中で常々感じていること。それは、
「冬の寒さは、春を迎える嬉しさを最大限に感じさせてくれる最高のスパイスである」
という思い。
大寒を過ぎ、毎日凍える寒さの中でそんな事を思うとき、この一節と出会った。
***** 本書 31頁より引用抜粋 *****
わずかながら世界のあちこちの春を体験してみると、春とは冬を経てこそはじめて味わえるものだということを、今更のように感じた。
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今、寒さと向き合う季節の中でこの本にめぐり合えたことを心から嬉しく思う。
- 日高 敏隆
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