僕がまだ幼かった頃、テレビゲームもない時代の毎日の遊び場所は、家の前に広がる海でした。


学校から帰ると、玄関先にランドセルを放り出し海岸まで、一目散でした。

近所の友達たちもまた同じ。


皆んなで砂浜の上を走り回ったり転げまわったり、はたまた砂で山を作ったり。

そんな、毎日の中で、砂浜を踏みしめる時の「キュッ・キュッ」という音や、掬い取った砂が手のひらからこぼれ落ちる利時に発する「サラ・サラ」という音色が、子供心になんとも心地良い思いがしたものでした。


そんな「砂のメロディー」が聞こえなくなったのは、いつの頃からでしょうか。

今でも砂浜を歩くのが大好きな僕には、とても寂しく残念でなりません。



砂のメロディーを「鳴く」と表現した人がいることを知ったのは、社会人になってからのことでしょうか。

その人は、生涯を掛けて、「鳴かなくなった砂」を蘇らせる事に情熱を傾けられました。

鳴かなくなった砂は、汚れにまみれた砂が「泣いているのだ」という事をその人は僕達に教えてくれました。


毎日、海を見て暮らす贅沢を許される僕にとって、「鳴く砂」の海を取り戻し、次の世代に引き継いでいく事が大切な責任だと改めて心に期します。



大切な事を教えてくださった偉大な先輩の訃報に接し、その功績に心から敬意を表し、そして故人のご冥福を心よりお祈りいたします。



***** 中日新聞 2007年11月7日記事より引用 ******


 三輪 茂雄氏(みわ・しげお=同志社大名誉教授、粉体工学)10月22日午後、心不全のため京都府宇治市明星町1の13の18の自宅で死去、80歳。岐阜県出身。葬儀・告別式は既に執り行われた。喪主は長男信雄(のぶお)氏。

 浜辺を歩いたり、棒で突くとキュッ、キュッと音を出す鳴き砂の研究で知られ、「全国鳴砂ネットワーク」顧問も務めた。   (共同)。



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