僕が、何の巡り会わせか、ディジタル情報テクノロジーの世界に身を置くようになって、早21年目に突入してしまいました。
この世界に身を置くようになって今日まで、まさに「日々進化する」ディジタル・テクノロジーの技術革新を目の当たりにし、大きな驚きにも出会ってきましたが、その中でも特に目を見張るのが、「データ記憶技術」の進歩です。
僕が、このディジタル情報テクノロジーの世界に入った1986年当時、いわゆる大型コンピュータと呼ばれる「1セット数億円」する機器ですら標準装備の構成では、数百メガバイトのハードディスクが一般的でした。
それが、たかだか20年ほどの間で、大型システムの世界では、ギガを超えテラバイトの容量を実現し、ごく一般的に個人でお使いのパソコンにすら100ギガバイトを超えるハードディスクが当たり前の時代となりました。
ハードディスクの記憶容量が、飛躍的に大きくなった事により、たくさんのデータを処理する事が可能となり、画像や動画を楽しんだり、また、いろいろな情報をディジタル化して「何時でも・何処でも・誰でも」が便利に使えるディジタル情報テクノロジーが、日常生活に大きな恩恵をもたらしてくれたのであります。
さて、お話しは、1988年へと遡ります。
フランスの科学者フェール博士とその研究グループは、ある実験に取り組んでおりました。
その実験とは、磁気をかけることで磁性体の電気抵抗値を「いかに大きく変化させるか」というものでした。
数々の試行錯誤の結果、フェール博士は、鉄(Fe)とクロム(Cr)の薄い膜を交互に挟んだ層に磁気をかけると電気抵抗の変化が大きくなるという現象を発見します。
時を同じくして、ドイツにおいても、まったく別のアプローチから、グリュンベルク博士の研究チームもこの鉄(Fe)とクロム(Cr)の層を使って同様の結果を発見したのです。
その後の研究により、鉄などの「強磁性体」とクロムなどの「非磁性体」を使った層において大きな電気抵抗の変化が得られるという事が明らかになりました。
あらためて、話しハードディスクに戻します。
ハードディスクというのは、構造上、回転する円盤の中に磁性体を置き、ヘッドという物を使って、その磁性体の「電気抵抗の値の変化」によって情報を保たせています。
つまり、ひとつの円盤にたくさんの情報を記録したい場合、その円盤の中には、より多く磁性体を置く事が出来れば、可能となります。
しかしながら、そうすると一定面積の中に数を増やそうとするのですから、当然、それぞれ、ひとつ・ひとつの磁性体の大きさを小さくしていかねばなりません。ただ、そうして小さくなった磁性体は、おのずと保持する磁気が弱まってしまう事が避けられません。そうなれば、磁気に起因する電気抵抗の変化も小さくなってしまうのです。
それを解決するため、小さい磁性体に大きな電気抵抗をもたらしてくれるヘッドの開発が切望されたのです。
回りくどい話しになってしまいましたが、この「大きな電気抵抗をもたらす」ヘッドの開発へつながる解決策が、フェール博士とグリュンベルク博士の発見した現象によってもたらされたのであります。
この発見が、いかに画期的で革新的なものだったのかは、この20年間のディジタル・情報テクノロジーの進化と普及が証明しています。
この情報テクノロジー世界の端っこにいる者の一人として、この大きな恩恵を心から感謝するのであります。
スウェーデン王立アカデミーは10月9日、2007年のノーベル物理学賞を、巨大磁気抵抗効果(Giant Magneto-Resistive)を発見したアルベール・フェール博士(69)とペーター・グリュンベルク博士(68)に授与すると発表しました。
お二人の功績が高く評価されたことに心から祝福と敬意を表します。