冒頭、こんな一節から始まる。



**** 本書13ページより抜粋 ****



(前略)


踏み台は、若い弟子へ、親方から課せられた腕試しの仕事であった。親方は、その出来栄えをチェックし、合格すれば、建主に竣工の記念として献上する。そしてそれは、ひとりの職人の輝かしいデビューを証明した。

徒弟制度は、前時代的として退けられ、マニュアルをそつなくこなせる能力だけが優先されるようになった。


(中略)


「組み立て屋さんばかりになっちゃって」昔ながらの大工さんが、ぽつりと言った。



***** 抜粋終わり ****




踏み台、蚊帳、手拭、熊手・・・・・



決して、遠い昔ではない時代に庶民の暮らしの中で息づいてきた物たちを「春夏秋冬」の情緒の中で語っていく。



姿を消したのは、道具ではなく、人の心。



著者の視線の先にあるものは、市井の庶民の豊かな心。





日本人の「忘れ物」を探し続けてくれた彼女の早すぎる死から今日で一年。



故人の生前の仕事に感謝し、そして心から冥福を祈りつつ。



杉浦 日向子
隠居の日向ぼっこ