今を、さかのぼる事、約30年前(1979年)、オーストラリアに住む、お医者さんのウォーレン先生は、
「胃炎」の患者さんの「胃粘膜」から「奇妙な形した」細菌を発見いたします。
先生は、この事を大学の医学部にいたマーシャル先生に話します。
二人は、共同で、他の「胃潰瘍・十二指腸潰瘍」の患者さんの「胃粘膜」を調べたところ、全ての患者さんの
胃粘膜から、この奇妙な形をした細菌を見つけます。
ここからが、お二人の苦難の道の始まりでした。
お二人は、「どうやらこの細菌が胃潰瘍の原因なのでは」と仮設を立て、学会に報告をいたします。
ところが、当時、医学を言うに及ばす生物学の常識、不変の定説は、
「強酸に覆われた胃の内部に、生物が生息できるわけが無い」。
お二人の発見は、あっさりと無視されてしまいます。
でも、ここで諦めなかった両先生、ついに1982年、この菌の「純粋分離培養」に成功いたします。
これだけでも、これまでの定説をひっくり返すとんでもない大偉業なのですが、でも、お二人の目的は、
「この細菌が胃潰瘍の原因である事を証明する」こと。
なんと、マーシャル先生自ら、この菌を飲み込んで、見事、胃潰瘍にかかる事を証明してしまった
のでありました。
いやはや、科学者の真理探究の執念には、脱帽です。
この発見された細菌は、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)と名づけられ、これまで、
明確な治療が無く、「ストレス」などに起因した、「慢性疾患」とされてきた「胃潰瘍・十二指腸潰瘍」
の治療法を大きく変え、「細菌」の「除菌」により完治できる道が開ける事となりました。
スウェーデンのカロリンスカ研究所(Karolinska institutet)は3日、オーストラリアのバリー・マーシャル西オーストラリア大教授(54)と、病理専門医ロビン・ウォーレン博士(68)に対し
「ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)」発見と胃炎や胃・十二指腸潰瘍(かいよう)の発生に深く関与していることを突き止めた
功績を偉大なものとして今年のノーベル賞「生理・医学」部門の贈ることを発表しました。
お二人の受賞に心から敬意を表します。
「最近(1979年)」見つかった「細菌」にまつわる人間ドラマに一席でした。
追記:この奇妙な形をした、細菌「ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)」の名前の由来を少しだけ
この細菌は、その生息する場所が胃の奥の幽門部(ピロラス)にある細菌という意味で「ピロリ菌
(pylori)」と名付けられた後、その特徴的な形が、レオナルド・ダ・ヴィンチの描いた「ヘリコプター」
の絵に似ている事から「ヘリコプター(のような形)細菌(Helicobacter )」と呼ばれるようになった
そうです。