トランプ氏が失敗で得た教訓—政治とビジネスは違う | マーケットの今を掴め!FX・CFD東岳ライブ情報

トランプ氏が失敗で得た教訓—政治とビジネスは違う

投資家はドナルド・トランプ米大統領の存在を楽観的にみてきたが、これは政権がビジネスを得意とするという信頼感に根ざしているところが大きい。だがトランプ氏が医療保険制度改革法(オバマケア)の代替法案で屈辱的な失点を喫したことを受けて、投資家はその楽観論を見直すかもしれない。失敗の少なからぬ原因は、トランプ氏が政治をビジネスのように扱ったことにあるのだから。

 

ビジネスでは、取引はお金に左右される。合併した企業を誰が経営するか、ライセンスの条件は何かなど、表向きはお金に関係のないこともお金で解決できるのが普通だ。そのため成功は、するかしないかのどちらか。一方がもう一方(統合相手、債権者、サプライヤー、組合、政府など)の納得できる金額を支払うか、案件が成立しないかだ。

 

これとは対照的に政治では、お金だけでなく思想や権力、忠誠心や敬意といった優先事項を持つ複数の関係者が案件に絡む。お金を巡る争いに見える時でさえ、そうでないことは多い。共和党のオバマケア代替法案を撤回させた「フリーダム・コーカス」の同党議員はそのコストだけに反対しているのではない。福祉国家の拡大という考え自体にも反対しているのだ。政治では、成功は定義するのが難しいうえに、両立しないことも多い。医療保険制度で中道派の歓心を買うことは、保守派の怒りを買うことを意味する。その逆もしかりだ。

 

FOXニュースのコメンテーター、ジェニーン・ピロ氏は25日、「ワシントンとその立法のニュアンスや一部始終をビジネスマンが完全に理解するとは誰も期待していなかった」と述べた。トランプ氏を擁護するような発言だが、有権者に対する本人の売り込み文句を無視している。トランプ氏は、ディールメーカーとしての自身の能力を持ってすれば職業政治家が失敗した分野で成功できると訴えていたのだから。

 

トランプ氏はビジネスに対する手法でオバマケアに臨んだために失敗した。その詳細にほとんど関心がなく、共和党のさまざまな会派から民主党の議員、知事、保険会社、そしてもちろん保険で守られる人たちなど、多くの当事者の言い分を理解しなかった。自身の政策目標に欠けることから、単純に法案が通過するかしないかの二分法で成功を定義した。法案の中身が気に入らなかった議員たちはそこに違和感を覚えた。

 

トランプ氏の盟友であるトム・コットン上院議員(共和、アーカンソー州)はオバマケアの味方ではない。だがトランプ氏とポール・ライアン下院議長の間違いについて26日にCBSの番組で説明した際にはオバマケアを成立させた民主党の対照的な手法に言及。同法が「第1次オバマ政権で1年以上にわたり成立しなかった」と述べた。「オバマケアは広範にわたる意見聴取を経たほか、当時のバラク・オバマ大統領が全米を訪れ、市民との集会を開き、上下両院合同会議で演説をした」

 

その結果生まれた法案が複雑だったのは偶然ではない。あまりに多くの優先事項が衝突し合っていたことを反映して、耐え難いほど微妙なバランスが取られた。

 

複数の当事者が関わる複雑な案件はもちろんビジネスでも多い。だがビジネスでの成功は、「利益や株価を押し上げたか」というように、最終的に定量化し、評価することができる。

 

この違いはトランプ政権のさまざまな政策に影響する。国際貿易を例にとろう。業績の悪い鉄鋼会社に資金を投じた経験を持つ投資家のウィルバー・ロス氏にとっては、鉄鋼労働者とともに輸入品からの保護を支持するのは割合に単純なことだった。だが商務長官の立場にありながら米鉄鋼業界の利益・賃金面からのみ成功を定義すれば、鉄鋼を消費する業界が大打撃を受けるリスクのほか、貿易相手国による報復措置のために経済・外交面で打撃を受けるリスクを負う。

 

レックス・ティラーソン氏が国務長官に指名された際、エクソン・モービルの最高経営責任者(CEO)として外国政府と交渉した経験が評価された。だがティラーソン氏は常に肝心な点をわきまえていた。エクソンの株価上昇につながらない案件からは撤退できるし、撤退するということだ。外交では米国の国益がそれほど簡単に定義されることはめったにない——北朝鮮問題での協力関係に悪影響があっても中国の為替政策に対峙(たいじ)すべきか、国境の治安を巡ってメキシコの親米大統領を威嚇したら次の選挙では反米左派が勝つか、といった具合だからだ。

 

外交問題評議会のリチャード・ハース会長は今月、「大統領は時には、可能な中で最高の取引を追求する誘惑に抵抗すべきだ」と記している。「選択肢を残し、相手が自国で案件を売り込めるようにすることが重要」なためだ。

 

トランプ政権は税制改革がオバマケアより簡単だとみている。主にお金に関することだからだ。

 

その考えは甘い。共和党議員と相当数の民主党議員に税率引き下げを認めさせるのは簡単だ。だがそうしようとした人なら誰でも知っている。減税のためによそで増税したり施策を削減したりすれば政治的パンドラの箱が開く。

 

共和党内の足並みもそろっていない。議員は富裕層向けの減税や法人税減税が絡む仕事や投資の奨励を重視している。スティーブン・ムニューシン財務長官は、それよりも中間層支援が重要だとの考えを示してきた。トランプ氏は大統領選ですべての人に対する減税を約束したが、それを賄う資金について確かな計画は全くなかった。大減税は、財政収支が黒字だった2001年のジョージ・W・ブッシュ政権には可能だったが、今は財政赤字が増え続けている。

 

ロス氏やティラーソン氏、ムニューシン氏がこうした複雑さを承知していたとしても、上司がそうでなければ役に立たない。税制改革では、トランプ氏が詳細を研究し、大統領令について署名以外に自分が何をしたいのかを把握し、法案が議会に提出される前に詳細を熟知できるだけのスタッフを雇い、彼らに期限ではなく時間を与えることだ。トランプ氏はスピーディーな勝利に飢えているが、政治ではスピードが勝利の敵であるケースも多い。