FRBとトランプ大統領、衝突は必至?
米連邦準備制度理事会(FRB)はホワイトハウスとの衝突が避けられない状況にあるのだろうか。FRBのジャネット・イエレン議長の答えは「ノー」だ。少なくともまだそこまでには至っていないようだ。
議長は15日、連邦公開市場委員会(FOMC)後の記者会見で、ドナルド・トランプ米政権の経済成長てこ入れ策が景気過熱を防ごうとしているFRBの取り組みとぶつかる可能性があるかについて慎重な評価を示し、「衝突が起きるとは思わない」と語った。
攻撃的な言動の多いトランプ大統領に対する融和的なメッセージのように感じた人も多かったかもしれない。だが、議長は「物価安定という状況下で経済成長が加速するのは(FRBとして)大歓迎だ」と続けた。
さらに「生産性の伸びを加速させ、経済の潜在成長率を引き上げる政策を検討するよう議会と政府に強く要請してきた」と述べた。
つまり、トランプ政権や議会がインフレを加速させずに成長率を押し上げる経済政策を導入するのなら、イエレン議長をはじめFRBの面々は邪魔立てするつもりはないということだ。
とはいえ、多くのFRB関係者はすでに、米国経済はフル稼働の状態に近いため、成長がさらに加速すれば物価上昇圧力が高まりかねないとみている。
FRBが先週のFOMC後に公表した経済見通しでは、実質国内総生産(GDP)の予想伸び率(中央値)は2017年と18年がいずれも2.1%、長期が1.8%だった。また、インフレ率は目標の2%に向かっており、年内に到達すると予想している。失業率については「完全雇用」と考える水準を下回りつつあるとの見立てだ。
トランプ政権が潜在成長率を上昇させることができれば、インフレ急騰を引き起こすことなく景気に一段と弾みがつく可能性もある。
潜在成長率はここ数年で低下してきた。生産性や労働人口の伸びが鈍化していることが主な原因だ。どのような財政政策を講じればこうした傾向を反転させられるのか。イエレン議長やその他のFRB幹部は、労働参加率を上昇させる政策のほか、教育やトレーニング、インフラ、企業への投資を促す政策など、幾つかの提案を行ってきた。
FRB関係者らは、労働力の重要な供給源である移民を制限すれば、経済成長を阻むことになると警鐘も鳴らしてきた。さらに、短期的な成長加速を狙った減税や財政出動はインフレを引き起こす恐れがある。
今のところ、大半のFRB関係者は、ホワイトハウスの経済政策が金利政策の道筋に及ぼし得る影響について判断を差し控えており、年内あと2回の利上げという見通しを変えていない。
記者会見でのイエレン議長の対応は、政治的に機転の利いたものだった。議長が最も避けたいのは、選挙戦中に議長への批判を繰り返したトランプ大統領との対立だ。だが議長はその一方で、FRBとしては経済に短期的な恩恵しかもたらさない政策を引き続き警戒しており、必要なら利上げペースを速めて対応する用意があることもほのめかした。