欧州系銀行の資産売却と受け皿になる日系メガバンク3行
今年も依然として世界経済の大きなリスク要因になっているユーロ危機ですが、どうも最近の報道を見ていると、ギリシャ債務のヘアカット(元本棄損)の度合いが当初想定された額より大きくなる見通しが出てきています。
それと言うのも、ユーロ危機がPIGS諸国に焦点が当たっていたころは、元本の20%弱の棄損度合いになる報道が態勢を占めていましたが、昨今の報道では、それが50%、加えて押えられる金利も大幅にカットされる事になり、債権者サイドから見ると結果としてヘアカットは70%強に達すると試算されています。それに加えて、そうした条件が受入れられるように債務者サイドのギリシャは無秩序なデフォルト、つまり全額デフォルトをちらつかせはじめているようです。これは言うなれば「借金したもの勝ち」と言う関係図を作っています。
こうした動きに対して債権者サイドの銀行やヘッジファンドの中には、こうした動きをストラスブールの人権裁判所に訴えることを検討する報道が出ているそうです。つまり、ここで無秩序なデフォルト(全額不履行)の可能性をちらつかせる行為は契約書上の取り決めに対して大きく違反すると言う事です。契約書の遵守を重んじる欧米社会では重大な犯罪行為です。こうした訴訟がギリシャに対して多数おこされれば、当然のことながらギリシャに対する国際的な信用、言い換えるならファイナンスに重大な懸念が生じる事になります。
こうした欧州の経済危機に対して日本の銀行は有利な立場に置かれており、ヘアカットに備えて資産売却を加速させたい欧州系銀行の受け皿として欧州から熱い視線を集めていますし、日本側としても欧州の金融ビジネスでのさらなる飛躍、さらにはそれらを梃子にして世界市場での一層のプレゼンスの強化に期待が寄せられています。
振り返ってみると2007年末までウォールストリートは我が世の春を謳歌していましたが、BNPパリバの傘下ファンドの凍結等のニュース報道が出始めたころから、それらに異変が生じ始めていました。
2008年のそうした欧米金融機関の異変とは反対に、みずほコーポレート銀行が米国金融大手だったメリルリンチに、三井住友フィナンシャルグループ(三井住友FG)が英銀大手のバークレイズ・キャピタル(RBS)に、三菱UFJフィナンシャルグループ(三菱UFJ)米国証券大手のモルガンスタンレーに巨額の出資を行いました。その後金融危機の深刻化で、資産売却は一層加速させ、2012年には三菱UFJはRBSから中東・アフリカ地域のプロジェクトファイナンス関連部門を買収、2012年には三井住友FGがRBSから同社の航空機リース事業を買収しています。
ただ3メガバンクを筆頭に欧州系金融機関から寄せられる資産売却の打診の数と比較して日系の買い向かう姿勢は、今のところ強くはありません。その背景としては世界的な金融機関の自己資本規制の強化の流れが有ることから、自己資本、特にTier.1に分類されるコアの部分の資本を厚くしておきたいという思惑が有るためと思われます。
つまり今の邦銀の胸中を推察するに、自己資本比率規制強化と言う経営リスクを意識しながら、欧州系銀行から打診される資産売却話の中から優良な案件を模索しているというところではないかと思います。
そう考えると、三井住友FGが購入したRBSの航空機リース事業は事業そのものが抱える損失リスクの低い割に、当期だけ見ても同事業は利益ベースの総資産利益率(ROA)で軽く2%を越えていることからリスクリワードの点で非常にいい買い物だったのではないかと思います。(ちなみに同時期の三井住友銀行単体では利益率は0.38%程度だった事を考えると、いかに同事業の利益率が良いか、わかって頂けるものと思います。)
また三菱UFJのモルガンスタンレー出資も、当初三菱UFJ首脳陣が狙った事はモルガンスタンレーの経営に対して取締役派遣を含む大きな発言権を握り、モルガンの持つ投資銀行ビジネス等の吸収と、米国市場、特に米国M&A市場や世界最大のハイイールド市場への本格的な進出の足掛かりにすることを狙ったと思いますが、金融危機が出資後さらに深刻化した事で普通株での受取から優先出資証券への転換を図り、金銭的利益の確保に留めた事は、ある意味で非常にもったいない事をしたように思えますが、それでも配当の良いモルスタの株を8000億円分近く保有している事は三菱UFJの財務に大きくプラスに働くことは間違いありません。
(ただそれらに関しては、今後モルスタが大規模な第三者割当増資等で株の希薄化等を行う懸念が有ることから永続的に続くと考えるのは危険でしょう。)
今後もユーロ危機の中、日系金融機関を中心に欧州の銀行から資産を買うという動きは続くと思います。私には日系金融機関は10年に一度のチャンスだから頑張ってくださいと言う気持ちが有る一方で、ギリシャのヘアカットに関するゴタゴタからハッキリと言える事ですが、買収後に何かトラブルが発生した場合、こんなタフな相手と交渉することになりそうですが、本当に日系金融機関は対処できるのだろうか?と言う一抹の不安を持つのは私だけでしょうか?
Ken