昭和から平成に御代替わりして間もない頃,ここは,奄美群島のとある島にあった農業高校の会議室である。

 

若い女性が皆無で殺風景だった学園に,23歳の期限付女性教諭がやってくると聞いて,男性諸氏が老いも若きもにわかに活気づいたのは二週間ほど前だった。

 

後に県教委の幹部に抜擢された二十歳過ぎの兄ちゃんに言わせると「彼はここで唯一のマトモな教員ですよ」だった!?イケメンM教諭もまた,結婚こそしていたが,ウキウキとしながら私に「バッチリだったらサムアップしましょうネ!」と弾んだ声で言ったぐらいだ。

 

さっきから,職員朝礼開始を待つ会議室前をウロウロしている,まるでドラム缶のような体型で,福笑いみたいなキツいメイクをしたおばはん?がいる。

 

「あら,保護者召喚の人かな?」なんて,なんせ何十人もの生徒が賑やかに学校謹慎するのが珍しくもなかった学校だけに皆が思っていると,チャイムと共に校長がやおら立ち上がって廊下に向けてうなずき,そのドラム缶を招じ入れた。

 

「エッ!まさか・・・これが23歳の」と絶句した私はすぐに,親指が下を向いた,サムアップならぬサムダウンが出るかとイケメンM教諭を見たが,彼はすでに長机に突っ伏して,全身で落胆を強く表現していたのだった。

 

荒れる学園の希望の灯が無残に打ち砕かれてから3週間ほどが過ぎ,新入者歓迎会の夜がやってきた。新入者それぞれの自己紹介が始まり,やがてドラム嬢の番になった。

 

彼女は,なぜかは知らんがスリップを必ずスカートの下からはみださせて着る癖があり,今夜もまたそうやっていて,なんとも言えないだらしなさを見せていた。

 

これがまあ,しどけなさを身にまとった彼女は凋落の姿態を妖しくのけぞらせていた・・・とでも描写できるのなら絵にもなるんだがなあなんて,私が内心ひそかに思っていると,

 

ドラム嬢の自己紹介は進んでいき,最後に「お酒の好み」にふれることになったのだが,そこで彼女は「私はワインしか口に合わないんで,ほかのお酒を飲むことはありません」と言った。

 

私が内心「しかし,そういうセリフは人前で言わない方がいいんじゃ?たとえ美人でも反感を買うのに悪いけどアナタの場合は特に・・・」と思うよりも早く,背後に座っていた日教組のお歴々の中から「チッ!」と舌打ちが鳴り響き,

 

互いに「先生 先生」と賢愚を問わず呼び合い,厳しく個人の責任を追求することなど管理職に始まって誰一人できないぬるま湯の世界にしては珍しく,

 

気に入らないことがあると,朝礼だろうが職員会議だろうが「山田あ~(仮名)今度のことはオマエが悪い!オマエのせいだ!」と,立ち上がって指さしては怒鳴りあげて糾弾するので有名だった狂犬教諭の口から「おまえは焼酎を飲んでればいいんだ!焼酎を」との実に素直な言葉が吐かれたのだった。

 

彼は平素から「山本(仮名)は仕事もできんくせに口ばかり達者で生意気だよなあ~殴ってやろうかな」なんて,常日頃から平和主義だの話し合いによる共通理解をだのと日教組魂を披歴する割には,実に野蛮で?強圧的な性格だったのだが,

 

私は,彼がほんの数日前に声涙共に下る様子でるる述べた「いかなる差別も許さない!子供や女性の人権へのこまやかな配慮を,われわれ教育者は徹底して実行し,周囲に波及させなければならないのです」という正論を思い出し,

 

また,彼に次ぐ猛者として,校長へ厳しい当たりを常に見せていた戦闘的な肥後教諭(仮名)がさっき,ドラム嬢とは別の,やはりムクムクとよく太った(あんこ型の力士体型)女性職員の自己紹介の際に大声で入れた合いの手「いよっ 小錦!!」とも併せて,日頃の教育労働者としての主張との大きなギャップに驚いたのだった。

 

もちろん,これに関しては日教組ばかりを責められないのは承知している。自分自身もそういう面は持っているし,何よりも女性達ご自身が,心ときめく見栄えのいい男性がすることならばウットリするけれど,そうではない男性が同じことをしても「フン!あほくさ」となさる場合が多いのだから。

 

さはさりながら,

 

誰しも自分で容貌を選んで生まれてくるわけではないし,女の美醜も男の才能も,親の計らいでもなければ本人のせいでもなく,すべては与えられたものなのだが,

 

見た目ってのは確かにあるよなあ・・・と,栄養の行き届き過ぎた様子の女性達を拝見するたびに,奄美での大胆にして率直な女性差別の表明を懐かしく思い出す。

 

 

造化の神は不平等で不公平 なのだ!?