アフリカには、消えたユダヤ教徒の子孫と名乗る部族が各地に多数存在しています。そのように名乗る部族は数十に上るといわれています。また、アメリカには、1960年代に「ブラック・へブルー」というグループが、黒人こそ消えたユダヤ人の子孫であると主張しました。どうも、新興宗教の一つらしいのですが、彼らは実際に、1969年にイスラエルに移住し、集団生活をしているということです。

研究者によると、アフリカの部族やアメリカの黒人たちは、自分たちが差別や奴隷の状況に置かれてきた歴史とユダヤ人が差別や奴隷の状況に置かれた歴史を重ね合わせて、同一化しているのではないかといわれています。たしかにそういう側面があるに違いありません。それ以外にも、アフリカの部族社会とユダヤ教徒は、割礼や油によって祝福するやり方などを共有していることから、同祖論が生まれやすい状況もあるように思われます。

 

アジアでも、とくに辺境に住む部族の中に、消えたユダヤ人の子孫と名乗る部族があり、一部の人々は実際に、ユダヤ教に改宗したり、イスラエルに移住したりしているということです。実際は、これらの人々は、自分たちがユダヤ人の子孫であるということを主張することによって、イスラエルへの移住を正当化にしている可能性もありそうですが、真相は分かりません。

 

いすれにしろ、紀元前8世紀に起きた歴史的な出来事が、いまもなお生きて社会を動かしているということに不思議さを感じます。人間は、歴史の中で生きているのですが、たんに歴史的事実の中で生きているのではなく、自分たちに都合のいいように歴史を創りながら、あるいは、歴史を改変しながら、その中に住み込むことによって、自分のアイデンティティを創り出しているということです。つまり、人間には、自分の中のもう一つの、いわばバーチャル世界を作り替え改変することによって、自分のアイデンティティを創り出すという独特の能力が備わっているのです。