8)出エジプト

 

 <モーセ>

聖書によると、ヨセフの死後もユダヤの民はエジプトでますます繁栄し、人口が増えました。ユダヤの民があまりに繫栄するので、ファラオは、ユダヤの民がやがて大きな勢力なるのを恐れて、ユダヤの民に重労働を課し、奴隷の身分に落としました。さらには、ユダヤの民として生まれた男児を殺害するという政策をとるまでになり、ユダヤの民は窮地に立たされることになりました。

 

その時期に関して、「出エジプト記」に、ユダヤ人が「ラメセス」の町の建設に従事したという記述があることから、第19王朝のラメセス2世(B.C.1290~24)の時代ではないかと考えられています。

 

そんな状況の中、神がモーセに顕現します。聖書によると、モーセは、ユダヤ人の子として生まれたのですが、不思議な巡りあわせによってエジプトの王女に育てられることになります。

ある日、モーセは、ユダヤ人がエジプト人の役人に打たれているのを見て、その役人を打ち殺してしまいます。そして、ファラオの追手が届かない地方に逃れました。そして、そこで結婚して子供も得て、羊飼いをしながら暮らしていました。そうして時が流れ、ファラオが交代しました。その間も、ユダヤ人たちは重労働にあえぎ、助けを求めて苦しんでいた。

 

そのユダヤの民のあえぎ声を聴いた神がモーセを召命したのです。神は、聖なるホレブの山にモーセを誘います。そこで、芝が燃えても燃え尽きないという不思議な現象に誘われて近づいてきたモーセに、神が、芝の中から次のように語ります。

 

すなわち、神は、「わたしはあなたの父の神である。アブラハムの神、イサクの神、ヤコブの神である」と自分を名乗り、ユダヤの民の苦しみの声を聞いたので、エジプト人の手からユダヤの民を救い出して、「広々としたすばらしい土地、乳と蜜の流れる土地、カナン人、ヘト人、アモリ人、ペリジ人、ヒビ人、エブス人の住む所」へ導くと語ります。

 

その救出の役割を担うのがモーセであると、次のように語るのです。

 

「見よ、イスラエルの人々の叫び声が、今、わたしのもとに届いた。また、エジプト人が彼らを圧迫する有様を見た。今、行きなさい。わたしはあなたをファラオのもとに遣わす。わが民イスラエルの人々をエジプトから連れ出すのだ。」(日本聖書協会『聖書(新共同訳)』「出エジプト記」)

 

しかし、神の召命を受けたモーセはためらいます。どうして私にそのような重要な役割が与えられるのですか、そんなことが私にできるはずがありませんと神に訴えます。そのようなモーセを、神はなおも、「わたしは必ずあなたと共にいる。そのことこそ、私があなたを遣わすしるしである」といってモーセを説得します。

 

そのようなやり取りの中で、神は不思議なことを言います。エジプトからの出国に際して、「女は皆。隣近所や同居の女たちに金銀の装身具を求め、それを自分の息子、娘の身に着けさせ、エジプト人からの分捕り物としなさい」と神が語るのです。なんと、神自身がエジプト人からの「分捕り」を奨励しているのです。ユダヤの民はエジプトで奴隷としてさんざん苦しめられたから、出国に際してはエジプト人から財産を分捕っても構わないというのでしょうか。聖書の中の記述としては、異民族からの略奪を奨励しているようで、異質な印象を与えるところです。ただし、聖書には、エジプト人が求めに応じて進んで財宝や衣類をユダヤの民に渡したと記されています。