国連総会に出席するため、ニューヨークを訪れたエルドアン大統領が、シリア情勢について自国の立場をコメントしている。

 

(以下、本文。後半に解説あり)

 

主題:トルコはラッカのイスラム国に対して、一方的な行動を取らない

原題:Turkey will not act unilaterally against ISIL in Raqqa, Erdoğan says

媒体:Hurriyet News(トルコ)

日付:2016.9.20

種類:報道記事/要人発言(エルドアン大統領)

http://www.hurriyetdailynews.com/turkey-will-not-act-unilaterally-against-isil-in-raqqa-erdogan-says-.aspx?pageID=238&nID=104046&NewsCatID=352

 

(以下、East Media Newsによる意訳

 

国連総会に参加するためニューヨークを訪れているErdogan大統領は、920日、Reutersに対して次のように宣言した。

 

「トルコは「イスラム国」をシリアのRaqqaから追い出す計画について、米国が支援する有志連合と共に支援した」事を表明すると共に、「トルコはRaqqaの解放において単独で行動することはなく、我々は(米国主導の)有志連合の活動の一翼を担うだろう」

 

一方、トルコ外相のMevlüt Çavuşoğlu は同日、CNNインターナショナルChristiane Amanpourに対して、トルコ国境から40㎞南方に位置し、「イスラム国」が支配するal-Bab市とRaqqaが「イスラム国」から奪還する次なる目標となるだろうと発言している。

 

Çavuşoğlu外相の発言の一日前、Erdoğan大統領もal-Babについてトルコが一月前に立ち上げた対「イスラム国」作戦(ユーフラテスの盾)の次の目標であると発言している。

 

Çavuşoğlu外相は、「イスラム国」との戦いにおいてRaqqaを奪還することの意義について、もしこのエリア(約5000平方㎞)からテログループが一掃された場合、シリア難民に対する「安全地帯」を作ることができるとも強調した。

 

トルコはシリア国境に沿った「安全地帯」と「飛行禁止区域」設定の必要性について長らく主張しており、それは応酬の緊張を作り出している「イスラム国」戦闘員の一掃と、難民の流れを止める事を目的としている。

 

しかし欧米の同盟は、そのような込み入った戦場でそれを行うには、地上部隊と航空機による監視が必要になってしまうとして、これまで「安全地帯」「飛行禁止区域」設定のアイデアを進めようとしなかった。

 

Çavuşoğlu外相は、欧州のリーダーはこの提案を支持したが米国は未だ検討の中にあると言う。

 

トルコは自国軍と自由シリア軍による「ユーフラテスの盾」作戦を824日に開始している。当作戦の目的は、トルコと長い国境を接する北シリアから「イスラム国」や、トルコ国内の「クルド労働者党」の分派組織である、「クルド民主連合党」とその武装組織である「クルド人民防衛隊」を取り除く事にある。

 

Erdogan大統領は、Reuters「「イスラム国」と「クルド人民防衛隊」、これらは恐怖の主要な供給源である。」と発言し、「我々は忍耐している。…我々は軍の全てをシリアに配置していない。」とも伝えた。

 

さらにErdogan大統領はシリア戦争について、「al-Assad大統領の権力からの追放なくして、恒久の平和は達成され」ず、トルコはAssadと戦う反政府勢力の主要な支援者のひとつであり、約270億のシリア難民をもてなす国の一つである。と発言した。

 

また、「シリアの未来は、シリア国民によって決められるべきである…なぜこの殺人者(al-Assad)が幾つかの国から支持を受けているのでしょうか?」「al-Assadは移行期間でいかなる役割をも担うべきではありません。…世界はAssadを含まない解決策を見つけるべきです。…シリアの国家的一体性は、他国からも尊重されるべきです。」と発言した。

 

Al-Assadはロシア、イランとシーア派民兵から支持される一方、彼を追い出そうとするスンニ派の反政府勢力はトルコやアラブ湾岸諸国から支援されている。

 

(以上)

 

(以下、解説)

 

つい最近、ロシアと接近しつつ「アサド黙認」に立場を移した事が報じられたエルドアン大統領であったが、ここではアサド抜きの「シリアの未来」を、シリア国民が決定する必要性について力説しており、ロシアへの対応と比較して一見、矛盾が見られる。

 

しかし、記事を精読すると、アサドを容認しないのは「政権移行期」や「シリアの未来」においてであり、それは「シリア国民が決める事」であると共に、世界が見つけ出すべき解決策と言っている。

 

そして、現在のシリアについてはアサドが「殺人者」であること以外、何も言っていない。また、「シリアの国家的一体性」の尊重を求める点は、ロシアとの接近以降出てきた論点であり、これを踏襲していることから、アサドに対して単純に「白か黒か」を表明しているのではなく、あくまで「反アサド」と「親アサド」の双方の肩を持ちながら、自国の利益を見出そうとしているのだろう。

 

その利益の一つとみられるものが、トルコがシリア北部国境に沿って設置を求めている「安全地帯」と「飛行禁止区域」である。その目的について、表向きには難民保護に加え、「イスラム国」戦闘員や難民が欧州に流入することを防ぐためと言っているが、どうだろうか。

 

要は「難民保護」を名目に「安全地帯、飛行禁止区域」を設定することで、有志連合の力も借りながら、シリア北部から「イスラム国」、「クルド人組織」を一掃し、自国の安全保障を一層確実にしようという狙いではないかと思われる。

 

【トルコ情勢】シリア越境軍事行動の背景を探る③ トルコはシリアで積極的な役割を担う(トルコ首相

でも紹介したように、トルコとしてはアサドを積極的に排斥するよう行動する意志は見せていない。

 

むしろシリアが民族紛争の場と化し、国家的一体性を保つことのできない状態に追い込まれることをこそ恐れている。

 

そのような中で、アサド抜きの未来を決めるべき「シリア国民」とは、いったい誰の事を指しているのか。ここはまだ玉虫色の様である。