人事部に所属していた頃、新卒採用とインターンシップを担当していた。インターンシップとは、学生を対象にした就業体験のことを指す。主に、就職活動を控えた大学3年生が企業研究のために参加するもので、企業は自社をPRし、採用活動へとつなげるのが狙いである。就職活動や採用活動に直結するようなインターンシップは良しとされないが、【含みを持たせた微妙な距離感】を、学生も企業側もお互いに察知できるかが、インターンシップのキモである。旨みはそこにある。

さて、面接を経て選抜した30名の学生を数日預かるのは、実にくたびれる。プログラム内容はもとより、事故が起こらないように注意し、学生の体調を気遣い、場の雰囲気づくりに努め、参加してよかったと思ってもらうために、全力を尽くす。なるべく早く学生との距離を縮めて、今度は学生同士の距離を縮めていく。インターンシップ担当は、潤滑油のような存在である。

学生同士は初対面のため、当然緊張している。まずは、私が自己紹介をして場を和ませることにする。自己紹介で大事なのは、面白いことや人を引き付ける発言ではない。ポイントは自分の情報をどこまで開示するかである。その度合いで、印象に残る人と残らない人が区分されるのだ。3年間いろいろな学生を見てきたが、自己紹介の最後によく登場するNGフレーズがある。

「話しかけてください。

―他力本願。(この子は、懇親会でポツンとしているタイプだな)と予想し、フォローする。かなりの確率で、その通りになる。誰も話しかけないのだ。学生たちは、決して意地悪をしているのではないが、初対面の人をフォローできるまでの余力を持ち合わせているわけではないということだ。

―「話しかけてください」と言う人。もし、引っ込み思案で人見知りなのだとしたら、「お話ししましょう」と言い切って欲しい。もしくは、「人見知りで、今、緊張して話しています。」と言うのもいいだろう。知らない者同士なのは、皆一緒なのだから。

私は懇親会で一人ぼっちの学生をつかまえて、「次からは『一生懸命話しかけます』って言ったらどう?今私けっこう一生懸命話しかけてるよ。」と、言った。目が合い、学生の頬が緩んだので、再起を願って乾杯した。きっと、こうやって人は大人になっていくのだろう。