私は、帽子が似合わない。自覚があるので、ファッションに取り入れることはまずない。山歩きの時や、職場で着帽が義務付けられている場合は仕方がないので我慢するが、「帽子なんてめずらしいね」と言われる。自分でも分かっていることだが、人から言われると(やっぱり似合わないんだ)と妙に納得するものだ。

ある日、視力検査で「視力のバランスが悪いので、一つメガネを持っていたほうがいい」と言われた。メガネは、帽子以上に避けてきたものだ。以前、会社でPC用メガネをかけていた時に「誰かと思った」と複数人から驚かれたことがあったので、やめてしまった。しかし、今回は見た目の問題ではなく、健康に関わることだ。メガネの購入を決めた。

初めてメガネ屋に行き、驚いた。レンズの形、色、フレームなど、種類が多い。知らないとはこういうことだ。(私に似合うメガネがあるかもしれない)とほのかな期待が生まれる。少し楽しくなって、いろいろ試してみた。しかし、やはりコレだというものがなかなか見つからない。客観的な意見が欲しくなり、店員さんに意見を求めることにした。

メガネを初めて買うこと、似合わないので避けてきたこと、顔が自然に見えるものを探しているということを店員さんに伝え、いくつか選んでもらった。その中で、(これならいいかな)と思えるものがあり、鏡を見ていた。そこで、店員さんからの一言。

「時間が解決しますよ、見てる方も慣れますから。」

 

―「慣れますから」と言う人。メガネに慣れるのは、まずは私である。それに、店員さんは大概「似合いますよ」と言うものだ。それを、暗に似合わないと伝えてくるとは、殺生なことだ。もっと言えば、今私は(これならいいかな)と思っていたのだ。

ちなみに、お店のキャッチコピーは、【メガネを通して美しく豊かな人生を。】

 

その日買ったメガネは、家でしかかけていない。