廃棄される携帯電話1トンに280gの金が埋もれている。
政府は、小型家電を回収して貴金属やレアメタルを抽出・再利用する「都市鉱山リサイクル促進制度」を計画している。ただし、そのためには多大な労力と費用がかかる。最初から再資源化できるように設計変更が求められている。
近年は特に、携帯電話やテレビその他の製品などでイノベーションを支える高機能物質として機能する資源需要が高まっている。レアメタルやレアアースなど多様な機能を発揮する金属元素だが、地球にある利用可能な資源は有限であることから、世界的に消費量が増えるにつれ、枯渇や価格高騰といった資源リスクが著しく増大しているのだ。
この資源リスクを軽減させる一つの可能性が、「都市鉱山」である。
これまで、日本国内にどのくらいの希少資源のストックがあるのか、つまり、どのくらいの都市鉱山があるのかは今まで統計が取られていなかった。
独立行政法人物質・材料研究機構の元素戦略クラスター長の原田幸明材料ラボ長が、国内に蓄積されリサイクルの対象となる金属の量を算定し、その結果を平成20年1月に発表したのだ。今回対象としたのは、金、銀、銅、鉄、スズ、亜鉛、鉛、アルミ、ニッケル、アンチモン、コバルト、インジウム、リチウム、モリブデン、白金、レアアース、タンタル、タングステン、バナジウムで、それぞれの蓄積量としての都市鉱山の規模を推定した。
素材の場合は、部品や製品として輸出入されるケースも多いため、産業連関表を用いて、部品や製品を通じて輸出される素材の割合を推定し、その割合を工業統計から得られる部品などへの部材需要に掛け合わせることで、製品としての海外流出量を差し引いて計算している。
その結果、日本の都市鉱山は世界有数の資源国に匹敵する規模になっていることが判明したのだ。
それによると、日本に蓄積されている金は、約6,800トン。これは、世界の現有埋蔵量42,000トンの約16%にあたるのだ。同じく銀は、60,000トンで22%を占めている。これらは、電子部品などに多用され、今後世界的な需要増と供給リスクが予想される金属だ。
また、透明電極としてディスプレイや太陽光発電に用いられるインジウムは61%。他にも電子部品などに用いられるスズ11%、タンタル10%と、世界埋蔵量の一割を超える金属が多数あることが判明している。
日本の都市鉱山の規模を理解するために、日本の都市鉱山だけで現在の世界需要をまかなったら何年持つかという計算をしてみたところ、多くの金属については、世界の2-3年相当の消費量に匹敵する蓄積が日本にあることが分かっている。
また、電池材料として期待されているリチウム、触媒や燃料電池電極として不可欠とされる白金の蓄積量は、なんと世界需要を6-8年満たせるほど大きいという。
天然資源国の資源埋蔵量と日本の都市鉱山を比較したところ、金、銀、鉛、インジウムは、日本が世界最大の資源国となり、銅は世界第2位、白金、タンタルは第3位という資源国となる。
「資源のない国」と、国民は誰もが信じていた日本だが、実は有数の資源保有国だということがわかったのである。
国内での回収・リサイクルの体制を一日も早く整備することが肝要である。せっかく鉱山があっても、開発されていない状況なのだ。また、使用済み金属スクラップとして安価に海外に流出している場合も多い。
そのためには、使用済み製品の回収のしくみと、リサイクル設備が必要だ。
これについては、日本の非鉄金属業界では、製錬で培った分離・精製技術を応用し、電子機器類だけではなく、自動車などの廃棄物からも非鉄金属を回収しており、ある程度整備されているようだ。
また、本物の鉱山が都市鉱山に変わった例もある。約130年の採掘の歴史に幕を下ろし、閉山した秋田県小坂町の「小坂製錬(旧小坂鉱山)」は、鉱山時代の巨大な製錬施設を利用して、いまは電子基板からの金属回収作業を行っているという。
少子化日本も決して捨てたものではない。
注意:この記事は2020年9月に掲載されました。